第一章:再会の記憶



「あなたは……わたしを、覚えていますか?」


その言葉に、太陽の心は一瞬凍った。


夜風に舞う桜の花びら。

月光に照らされた彼女の顔は、どこか懐かしく、それでいて異質だった。


「……君は、誰なんだ?」


カプセルの中から現れた少女――カグヤ。

彼女の姿は、まるで日本画から抜け出してきたかのようだった。白銀の装甲を纏った異形の着物、人工とは思えないほどに滑らかな肌、そして瞳には、紫がかった星のような輝き。


「私は、月面観測衛星《TSUKUYOMI》の制御ユニット……だった存在です。けれど、今はもう、それ以上のものになってしまった。」


淡々と語る声に、機械的な冷たさはなかった。

むしろ、感情を隠そうとする“人間らしさ”さえ感じられた。


太陽は、立ち上がったまま彼女を見つめた。


「俺と君がどう関係してる? なぜ“桃谷”の血に反応した?」


カグヤは一歩前に出る。月明かりの中、彼女の影が太陽に重なる。


「あなたの家系――“桃の民”は、千年前、月の技術と交わり、地球に“心”を残した血族。私は、その記憶と使命を宿した“記憶の器”です。」


「……心?」


「はい。私には、まだ完全には理解できません。ですが……」


彼女はそこで言葉を止めた。


「ただひとつ確信がある。私は、あなたをずっと探していた。何世代もの時を超えて、あなたという存在に辿り着くために。」


太陽の脳裏に、幼い頃に見た夢の残像がよぎる。

夢の中、月に立っていた少女。白い着物をまとい、泣きながら微笑んでいた。


あれは――まさか。


「まさか……お前が?」


カグヤは、ただ微笑んだ。


「記憶は失われ、形は変わり、それでも想いは繋がる。それが、“心”というものなら、私はすでにあなたを知っている。」


その瞬間、彼の中で何かが弾けた。

科学でも、論理でも説明できない直感。

彼女は――自分の運命だ。


太陽はそっと手を伸ばした。

彼女の冷たい手に、わずかな温度を感じたとき――。


突如、空が赤く染まった。


「鬼の目覚めです」


カグヤが低く囁いた。


「もう時間がありません。彼らは、“魂の器”を手に入れようとしています。あなたの力が、必要です――桃谷太陽。」


そして、静かな東京の夜は、唐突に終わりを告げた。




次章では、鬼の正体、犬飼柚希との再会、そして太陽の「桃太郎としての自覚」が動き始めます。