本当に良かった。まずは、記事をご覧いただきたい。

<東電女性社員殺害>マイナリ受刑者の再審決定 東京高裁

毎日新聞 6月7日(木)10時6分配信


 97年の東京電力女性社員殺害事件で、東京高裁は7日、強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)の再審請求を認め、刑の執行を停止する決定も出した。最大の焦点だった、再審請求審での新たなDNA型鑑定結果について小川正持裁判長は「公判で証拠提出されていれば有罪認定できなかったと思われ、無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と評価。「受刑者以外の男が被害女性と性的関係を持った後に殺害した疑いを生じさせている」と指摘し、確定判決を強く疑問視した。

【事件から15年】現場周辺は関心薄れ

 ◇検察側、異議申し立て

 執行停止になると、マイナリ元被告の釈放手続きが始まるため、検察側は7日、再審開始と執行停止の各決定に対する異議を申し立て、釈放手続きの停止も申し立てた。

 再審請求審で行われたDNA型鑑定で、被害女性の体内から採取された精液の型が、殺害現場に残された受刑者とは別の男性(弁護側主張の「第三者」)の体毛の型と一致。その後の鑑定でも被害女性の胸部や下半身のほかコートに付着した被害女性のものとみられる血痕部分から「第三者」の型が検出された。

 決定は精液と体毛の型の一致から確定判決の認定が揺らいでいると判断。「被害女性が最後に性的関係を持ったのは『第三者』だ」との弁護側主張を認めた。その上で血痕部分の鑑定結果に着目し、「犯人が(性的関係を持った後に)被害女性を殴打した際、自分の手の表皮がはがれて女性の血液と混じって付着した可能性があり、第三者が犯人の可能性を示すものと言える」と指摘。「精液・体毛」の鑑定結果と併せて「相互に(現場に『第三者』がいたとの)可能性を高めあっている」と指摘した。

 検察側は「被害女性が『第三者』と現場以外で性的関係を持ち、付着した体毛が部屋に落ちた可能性がある」と反論したが、決定は「現場の部屋で性交したと考える方が自然」として合理的な反論とはいえないと退けた。

 検察側の異議に対し、東京高裁は別の裁判官3人が審理を担当する。異議審の結論に不服がある場合は最高裁への特別抗告も可能。刑の執行停止が最終的に確定すれば元被告は釈放されるが、入管法違反(不法滞在)の罪が有罪確定しており、入管施設に収容され、強制退去の手続きが進められることになる。

 マイナリ元被告は05年3月、高裁に再審請求していた。【和田武士、鈴木一生、山本将克】

 ◇東京高裁決定骨子

・再審を開始する
・無期懲役刑の執行を停止する
・「第三者」の男が現場で被害者と性的関係を持ち、その後殺害して現金を奪ったとの疑いを否定できない
・新証拠(「第三者」の存在を示唆するDNA型鑑定結果)は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たる


東電女性社員殺害事件とは
 97年3月19日、東京都渋谷区のアパート空き室で東京電力女性社員(当時39歳)が遺体で見つかった事件。顔見知りで隣のビルに住むネパール国籍の元飲食店従業員、ゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告が強盗殺人罪に問われた。直接証拠に乏しく1審・東京地裁は無罪としたが、2審・東京高裁は元被告が同月9日午前0時ごろ女性と性的関係を持った後に殺害して現金約4万円を奪ったと認定し、1審を破棄して無期懲役とした。03年に最高裁で確定した。



本当に良かったと思う。私が丁度司法試験の勉強をはじめたばかりの頃、伊藤真の司法試験塾(現・伊藤塾)に支援団体のチラシが置いてあり、以来興味を持って色々調べてみたことがあった。
素人感覚でもゴビンダさんはシロだと思うが、それ以前に、有罪となる証拠が脆弱というか、検察は立証を尽くしていなかった。
無論、ゴビンダさんが東電OL(今はこの名称ではなく、「東電社員殺害事件」なんてテロップが流れているが、これは「東電OL」で確立した事件名だと思う)を殺害したという、合理的な疑いの余地のない程証明しなければならないのは検察だ。
弁護側は、何も無罪を立証しなければならないわけではない。
それでも充分、無罪なのではないかと思わせるほど、無理筋な裁判だった。

この事件についても語り出したら止まらない気配がする。木嶋佳苗の裁判でおなじみの北原みのりさんは、元々、東電OL殺害事件と木嶋佳苗の事件が似ている(被害者・加害者が逆転しているが)と考え、その二つを対比させた本を書こうと取材を始めたのだそうだ。
まぁそちら方面もまた脇に置いておきまして、私がどうしても一つここで、一人でも多くの人に知って(思い出して)欲しい事を書き残そうと思う。

それは、一審で無罪判決が出た時のことだ。普通、無罪判決が出れば釈放される。ところがゴビンダさんは釈放されなかった。理由はこうだ。


「・・・控訴していた検察は「ネパールへの出国を認めて送還した後に逃亡されてしまうと、裁判審理や有罪確定時の刑の執行が事実上不可能になる」として、裁判所に職権による勾留を要請した。」

まぁそんな理由だ。
で、勾留を求めた検察に対し、東京地裁と東京高裁は勾留を認めなかったわけであるが、控訴審が係属した東京高裁では、勾留を認め、結局、それから半年余りで控訴審で無期懲役の逆転判決を食らってしまうことになるのだ。
彼はそれからずっと、6月7日まで、獄中に繋がれたままだった。
だから今回、再審決定のみならず釈放まで認められた(しかも検察側の抗告を蹴り飛ばしたらしいではないですか!)というのはもう弁護側にしてみれば完全勝利なわけだ。
ちなみにゴビンダさんの弁護人の名前を見てちょっと驚いた。神山先生でしたか!日本でも稀な、刑事弁護専門の弁護士。刑事弁護は儲からないよ~なんて話を伺ったのは10年前だっけ。

そして、私がここでどうしても書き残したいこと。それは、この保釈請求を却下しやがった裁判官が、司法の世界を囓った者なら知らない人はいない、司法界に汚点を残した、あの村木判事だったのである。
村木判事、この決定を行った半年余り後、児童淫行を繰り返し、翌年逮捕されるのであるが・・・
ウィキによれば

2000年4月1日、東京地方裁判所判事兼東京簡易裁判所判事に補せられる。同時に東京高等裁判所判事職務代行を命ぜられる。高等裁判所で刑事第5部を担当。

同年5月19日、東電OL殺人事件の控訴審(一審で無罪判決を受け、検察側が控訴)において、ネパール国籍の被告人の保釈請求を却下する決定を行う。2000年12月22日、上記ネパール国籍の被告人に逆転の無期懲役判決。

2001年1月20日、ホテルで、当時14歳の少女いに現金2万円の供与を約束してわいせつな行為をした(A事件)。同年4月5日、カラオケ店で、当時16歳の少女に現金の供与を約束してわいせつな行為をした(B事件)。同年4月28日、ホテルで、当時15歳の少女に現金1万円の供与を約束してわいせつな行為をした(C事件)。

同年5月19日 A事件について児童買春処罰法違反の容疑で警視庁蒲田署に逮捕される。 


これは何の罰ゲームなのか。多分、勾留決定した後、弁護側が異議申立をして、それに対し却下の決定をしたのが村木判事属する東京高裁刑事第5部なのだから、村木判事は、2000年5月19日に弁護側異議申立却下=保釈はやっぱり認めないよ、という決定をしたということだ。

その1年後の5月19日に、自分が逮捕されるとは・・・。

・・・という因果な話を一番したかったというわけではなく、ともかく、後に児童買春をやらかしてしまった判事に保釈を却下されたんだという話である。
口さがないネット住人は、「ゴビンダさんの呪い」だの「東電OL事件に触発でもされたのか」と大騒ぎしていたが、村木判事の弾劾裁判(裁判官は基本的に、憲法に規定されている事由以外は免職されないものなのです。村木判事は20年ぶりと言われる弾劾裁判にて、罷免されました)の担当裁判官が、これまた傍聴マニアの間では名高い山室惠判事だったというのが味わい深い。

ゴビンダさんは、幕張のインド料理屋「マハラジャ」で働いていたそうです。私は、事件の一ヶ月前、この幕張のマハラジャに行っているのです。二名ほどのインド人かネパール人か分からないのですが、外国人の給仕がいて、その中の一人が注文を取りに来たのを覚えています。
事件の現場(渋谷区)は、その後私が引っ越した街の隣の隣くらいで、隣町の桜丘には毎日のように通うことになり、その桜丘に、ゴビンダさんの支援団体のチラシが置いてあり・・・
というわけでどことなく縁があるようです。再審で無罪判決が出るまで、心で応援し続けます。



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