連日ワイドショーを席捲している、婚活詐欺連続殺人裁判の木嶋佳苗被告と、中島知子の自称占い師・岩崎氏には共通点がある。
外見がそっくり・・・太めぽっちゃり系という容姿が激似という噂もあるが、その共通点ではなく。
二人とも、不可解なのである。
彼女らが、一体、何が欲しいのか、何がしたいのか、さっぱり理解できないのだ。恐らく私だけではなく、多くの人が、大多数の常識人には。
木嶋佳苗の裁判傍聴日記を連載中の、北島みのり氏も、連載第一回の最後に「彼女は一体、何が欲しかったのか」を見極めたい、と書いている。


どんな殺人であっても、法治国家・日本に於いては、正当防衛と自衛戦争以外はおよそ正当化されないが、それでも、殺人者に「同情する」「同情の余地がある」あるいは、僅かでも情が移りうる原因や要因・・・生育歴や生活の困窮など・・・がある事が多い。
度々引き合いに出してしまうが、昨年の「フランス死刑制度廃止30周年記念円卓会議」の席上で、元最高裁裁判官の濱田先生がマイクを取り語り出した時から会場は緊張の糸がピーンとはりつめ、一触即発状態だったのだが、出席者の我慢の限界を超えて怒号が飛び交った瞬間がある。それは、濱田先生が次のような趣旨の発言をされた瞬間だった。
「私自身の経験から申しますと、殺人者にも色々ありまして、くむべき事情というか、やむにやまれぬ殺人を犯すような人もいれば、生まれつきそういう性格なのか何度も殺人を繰り返してしまうような気質の人もいて・・・」
ここで「違うよ!」「訂正しろ!」「やめさせろ!」といった怒号が、死刑廃止運動のNPO団体の方などから飛んだのであった。
でもなぁ。私なんかは戦後のあらゆる殺人事件をマニアックに追究してきたが、確実にいるのは事実だから、仕方ないよ。一片の同情の余地もない、血も凍るような殺人鬼・・・みたいな人間。こういう人は、暴言吐いてしまうが正直、何度死刑にしてもし足りないと思ってしまう。

ただ、女性の殺人犯というのは非常に稀だということは統計的に明らかである。元々粗暴犯に女性が少ないのだが、殺人ともなると、少ないケースの殆どが「情」がからむ。女性の強盗殺人犯とか、快楽殺人犯は殆どいないのではないか。ちなみに女性に多いのは、伝統的に放火である。
「情」がからむ殺人とは、代表的なのは痴情のもつれ的なもの。後は、子殺し、親殺しの背後に共犯だったり教唆犯だったりする男がいるもの。男が共犯でなくても、男がいるから邪魔になったという場合も含む。また、家族内や近隣関係等の人間関係で何らかの恨みを持ち、殺害に至るケース。これら全て、「情」から来る殺人である。
たとえば。
最近で言えば、通称セレブ妻殺人の三橋香織。彼女の事件が報じられた時、元旦那からモラル・ハラスメントを受けていた友人は「ワインボトルで頭を殴る気持ちが分かる」と言っていたし、死人に口なしで申し訳ないが、私も、彼女の証言が本当ならば気持ちは充分、理解できる。少なくとも彼女は、夫に対して「憎悪の感情」を以て殺害したのは事実であり、ほぼ争いのないところであった(検察側は金銭がらみも動機の一因とし、被告人側は追い詰められた末の心神喪失を主張していたが、いずれにしても、殺害に至る主たる動機は憎悪であると思う)。
あるいは。
殺人事件における全面否認で、無罪を主張していた女性の事件といえば、恵庭OL殺人事件も記憶に新しい所である。あの事件の動機は、恋人が自分を振り、直後自分の同僚と付き合いだしたという事で嫉妬し、同僚を殺害したということになっている。
あの事件も実は、今回の木嶋佳苗の事件と同じく、自白なし・直接証拠なしの、間接証拠を積み上げて有罪まで持って行ったという点で極めて近接している。しかもその間接証拠というのが今回と同じく、どれもなんだかかなり疑わしい証拠ばかりなのである(但し本人は今でも無罪を主張し、再審請求もしている)。異なるのは、今回の事件は「被害者が複数」という点、そして「裁判員裁判」であるという点である。
恵庭OL殺人事件も、仮に検察側の主張・裁判で認定された動機が真実であるとすれば、これまた同情までは出来ないまでも、「嫉妬が憎悪に変わり、殺意に至った」という部分の「嫉妬が憎悪に変わり」まではよく理解できる筈だ。ただ、それが「殺人」という一線を越えてしまった部分だけが、普通の人には理解できない所だが、しかし、その人の立場に立って想像力を働かせれば、多くの人は「そういうこともあるだろうな」位は理解できるのではないか。


しかし、である。
木嶋佳苗が犯したとされる殺人だが、もし本当に彼女が殺したのだとすれば、動機が理解できないのである。彼女が一体、何を求めていたのかが、被告人質問を重ねた現時点に至っても、未だに分からない。
結婚、でないことだけは確かである。彼女は現在も法廷で「結婚相手を探していた」と詭弁をふるっているようだが、数々の事実から、それが嘘であることは経験則上、明らかである(だからこそ弁護人は、彼女が特異な価値観の持ち主であることを強調するしかない)。
お金。これは、いくらあっても足りない位、求めていたようだ。しかし彼女は一度も貯金をした事がないという。彼女の目的は、お金そのものではなく、お金から得られる「物」なのか「生活」なのか、はたまた「羨望」なのかその全てなのか、それが分からない。

これを書いている時点(2月29日)では検察側の被告人質問が終了しておらず、検察側が主張する動機がいかなるものになるのかは不明だが、一つ、明らかになったのが、二番目の殺人と言われている安藤さんの事件で、最後に安藤さんはメールで、「あなたという人が分からなくなりました」「説明してほしい」「もし納得行く説明がなければ、すぐに司直の手に委ねる」とたたみかけるように木嶋被告に詰め寄っているのである。
安藤さんは最後のメールの後まもなく死亡する。とすれば。安藤さんから、警察等に相談され自分が騙していた事がばれるのを怖れ、それを阻止するために殺害したという、分かりやすい、お馴染みの動機が出てくる。
普通、お金を騙し取っていたとして、相手を殺すというケースの場合、相手から金銭の返還を強く請求されたり、公にするなどと言われて殺す事が殆どだ。安藤さんの場合はそれがあったという証拠が出てきた。
しかし、寺田さんの場合は、強く金銭返還を請求されたという事実は出てきていない。更に、大出さんに至っては、最後の最後まで、大出さんは結婚すると信じていたのである。前日に自身のブログで無邪気に「婚約相手の実家に行きます」と報告していた人が、仮に翌日、騙されていた事に気づいたとしてもいきなり金銭返還を強く請求するという事はまずありえない。
だとすすれば、木嶋被告は一体、何が目的で、寺田さんと大出さんを死に至らしめたと、検察側は考えるのか。一つ考えられるのは、二人とも、結婚という問題が現実化寸前であったことから、結婚から逃れる為に殺害したという事である。
だが・・・そうだとしても、結婚したくないからといって、そんな理由で、人を、殺すだろうか?


この、三者とも「練炭を用いて」あるいは「放火して」という殺害方法に、実に女性的なものを感じるのは私だけではない筈だ。女性は力が弱く、また激高することもそれほどなく、したところで大した力は出ないので、「暴行」「傷害」という手段による殺害はしないものだ。
また、この「練炭」やら「放火」、「薬」といった方法は、下手人に「自分が殺したという感覚」と「死」をリアルに感じさせないという特徴がある。
恐らく練炭を使った殺人に、明確な殺意を他の殺害方法ほどには強く感じさせないのではないか。殺人者は、ふわふわと夢のような感覚でいられるのではないか。
首を絞めて殺す時の相手の恐怖の表情や、断末魔の叫び、命乞い、そうしたリアルな「死」を感じることなく、またつい先刻まで自分と会話していた筈の生身の人間が、人形のような「死体」に、あるいは無残な姿での「遺体」になった姿を見ることもないから、「自分が殺した」という感覚をさほど持たずに済むのではないか。


この裁判は、自白がなくまた直接証拠がないにもかかわらず、3件の殺人を含むという「死刑」求刑が充分あり得る、女性による事件であるという点で、「和歌山毒カレー殺人事件」と同一である。
和歌山毒カレー殺人事件の林真須美も、動機が良く分からなかった。事前に保険金詐欺なんかを繰り返していた点も、今回の事件を彷彿とさせる。だが、カレーにヒ素を入れても、林真須美に何のメリットもなかったのである。従って動機は、近隣住民との不仲・・・という苦しいものになっている。動機は不可解でも、死刑判決を左右するものではないとして、最高裁で死刑が確定している(但し林死刑囚は今でも無罪を主張している)。
あの事件も、極めて疑わしいとされる間接証拠を積み上げ、未必の故意による殺意を認定し、死刑判決に持って行ったのだが、果たして今回、裁判員にそのような判断が出来るのか。


というわけで、私がそして多くの人が、木嶋被告から目が離せないのは、木嶋被告が動機をはじめとして一体、何を考えていたのか・何を求めていたのかがさっぱり理解出来ないからではないかと考えている。そしてこの事件の詳細と裁判上顕出された証拠を知る殆どの人が、自身の経験則に照らし、口には出さないまでも木嶋被告はクロだと思っている筈だ。
だとしても、なぜ三人を死に至らしめたのかがどうしても分からないのである。裁判傍聴記に、「被害者が三人もいるのに、何故か悲劇ではなく喜劇に感じてしまう」とあったように、木嶋被告は、三人の間を、あるいは世間を、せせら笑うようにひらひらと飛び交っているように思えてならない。馬鹿にしてるのか?復讐してるのか?一体、何がしたかったのか?
誰か、木嶋被告が、何を考えているのか理解出来る!という人がいたら、是非解説して欲しい。私には全く分からないし、全く情が湧かない。


そして、全く理解不能の殺人者の事を、人は「モンスター」と呼ぶ。



殺ったのはおまえだ―修羅となりし者たち、宿命の9事件 (新潮文庫)/著者不明
¥500
Amazon.co.jp

恵庭OL殺人事件。大越美奈子は果たして本当に殺ったのか?事件当日に灯油を購入したり、大越美奈子の車の中に灯油がこぼれた跡が・・・といった証拠も、事件直前に練炭を購入したり、車の中に練炭入れていたり・・・という木嶋佳苗の事件を彷彿とさせる。但し、恵庭の事件は、強い殺意を以て手をかけなければならない、「絞殺」である。