かのっちのブログ -24ページ目

かのっちのブログ

エッセイのように、散文のように

 藤稔は「ふじみのり」と読みます。葡萄の品種の一つです。

 一粒の大きさは巨峰よりも大きめで、皮を手で剥いて食べます。果汁が多く、甘味もありますけど、葡萄らしい酸味も後から漂ってきます。

 葡萄はチマチマ食べなければならないので、面倒くさくて、あまり食べたいと思いませんでした。ところが、藤稔を初めて食べたときに、「こんなに美味しい葡萄があるんだ!」と驚いたぐらいです。

 この葡萄に出会ったのは、亡き親父の関係でした。実家の近所に藤稔を育てている方がいて、その育て方を教わりながら、親父が藤稔を育てることになったのです。以前は田んぼだった土地を葡萄畑にしてしまいました。そんなに広い田んぼではなかったですが、そこに3本の葡萄の木を植えて育てていました。

 この葡萄を育てるのに手間がかかります。まず、枝を広げられるように田んぼに針金をある高さに張り巡らせます。葡萄は枝を針金の上に広げていき、その広がった枝に実が付いていきますが、その高さが中途半端というか、微妙というか・・・。直立で立っているよりも少し低くなります。つまり、ちょっとだけ腰を曲げないといけません。その状態で葡萄一つ一つに袋をかぶせていきます。この作業もとにかくしんどい。もちろん、消毒もして虫が付かないようにします。こうした作業を疎まない親父でした。収穫する時も、一つ一つを丁寧にハサミで切り落としていきます、ちょっと腰を曲げた姿勢で。それがどれぐらい続いたでしょうか。20年ぐらいかな。

 ただ、こうして収穫された藤稔は本当に美味しかった。その美味しさを分けてあげたくて、親父は楽しそうに作っていました。近所の方や頼まれた方への贈答用として送っていたようです。人によっては10箱ぐらい頼む人もあったようです。その藤稔が私のところに届くと、子どもたちは大喜び。「美味しい美味しい」と言って食べて、おじいちゃんに電話して「おじいちゃん、美味しかった!」と伝えると満足していたようです。そして、「来年もがんばっかな」と話していました。その嬉しそうな顔は、藤稔の木の下で撮った写真になり、実家のおふくろの隣で笑っています。

 もう藤稔に出会うこともないだろうと思っていましたが、伊勢市小俣の生産者が地域のファーマーズマーケットに出しているのです。大きい粒の皮を手で剥き、口にほうばると広がる果汁と甘さ、そしてちょっとの渋さ。藤稔でした。親父の笑顔が浮かんでくる。