第5話 하필이면(よりによって) | GG Times

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旧名:ソシペンス・ドラマ 「浪速の9人」、tk39fishのブログ

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宅配業者に偽装されたワゴンの車内に、ユリとナルシャは座っていた。運転席と助手席のすぐ後ろに、向かい合わせに取り付けられた粗末なベンチは、地面の凹凸をダイレクトに二人の体に伝えてくる。ユリの真正面に座って、携帯電話でどこかと会話をしていたウォンだったが、ようやく携帯をたたんでユリたちに向き直った。
「申し訳ないが、このまま軍の施設に向かう」
有無を言わさず車に押し込められた時点で、ある程度予期していた事態だったので、ユリもナルシャもノーリアクションだ。
「あ・・・オンニ、奥さんに知らせないと・・・」
不意に思い出してユリが言う。
「そうだよね。それはやっとかないとマズいな」
ナルシャも小刻みに頷きながら応える。その目はウォンを見つめたままだ。
「・・・どう説明するつもりなんだ?」
ウォンが言う。少しの間、考えてナルシャが言う。
「とりあえず、"まだ見つからないから探してる"って言うしかないでしょうね」
見つかってもいないテウを見つけたと言うわけにはいかないし、探しに出た自分たちの状況を伝えれば、余計な不安を増やすだけだ。ウォンが腕の時計をちらっと見やって言う。
「・・・いや、それもまずい。・・・おい、2号車はついてきてるか?」
隣に座っている部下が、自分に向けられた問いだと受け止めて、大きく頷いてみせる。
「よし、いったん近くで車を止めろ」
ウォンのその指示の理由が読めず、ナルシャが訊く。
「・・・どういうことなの?」
訊かれてウォンが言う。
「すまんが、君をテウの自宅へお送りする。誰も戻らないとなって、テウ夫人が余計な行動に出てはマズイのでね。今夜一晩、彼女のそばにいてやってくれ。その意味は解るな?」
「ユリはどうするの?」
横で無言のままのユリを見やって、ナルシャが言う。
「・・・彼女には別件がある」
「軍の施設で?」
「ああ、そうだ」
「何があるか教えてって聞いても無駄よね?」
ナルシャに言われ、ウォンが苦笑いを浮かべる。
「ものわかりがいいお嬢さんだ」
「伊達に歳はくっちゃいないからね」
ウォンもナルシャもニコリともせずに見つめ合っていると、静かに車が路肩に寄る気配がした。軽くナルシャに自分の左肩に手を置かれ、ユリがそちらに顔を向ける。
「明日の朝までに、あんたが連絡して来なかったら、あたしも動くからね」
頼もしいナルシャの一言に、すがるような目で小刻みに頷いて返すユリ。そんなユリに軽くウインクしてみせ、その目をウォンにキッと向けた後、ちょうど外から開けられたワゴンのスライドドアを、自ら出ていくナルシャ。心細げに見送るユリの前で、再びドアは閉まり、ゆっくりと車は加速し始めた。
「心配するな」
そう声をかけてきたウォンに思わず厳しい視線を向けるユリ。
「これから行く場所で、心細い思いをすることはない」
ウォンはそう言ったっきり、目的地に到着するまで再び口を開くことはなかった。

金浦空港。ミンスがウォンからその一報を受けたのは、まさに日本に向かう便の搭乗ゲートに入ろうとしていた時だった。着信画面に表示された名前を見て、数週間前の出来事が一気に脳裏に甦った。やはり・・・と心の中で思った。あれはまだ終幕ではなかったのだ。コールし続ける携帯電話を手にしたまま、右手に握っていたチケットを係員に差し出して、一言「キャンセルだ」と告げると、戸惑う係員をよそに背を向けて歩き出す。ようやく電話を耳に当て歩き出す。一歩、歩むごとに、ミンスの表情は固さを増していった。

ソウル市内の某所、少女時代メンバーの宿舎になっている瀟洒なマンション。リビングの大きなテーブルに集まっているのは、ユナ、ジェシカ、スヨン、ソヒョン、ヒョヨンである。
「で、結局さ、8日からの3連休ってイケるわけ?」
ヒョヨンが冷蔵庫から持ち出したバナナ牛乳を、豪快に前歯で開けながら言う。
「マネージャーに確認したけど、先生さえ許可取れたらイケそうだよ」
ユナが鼻息荒く答えると、その横で携帯をイジりながらジェシカが言う。
「カムバの練習開始っていつだっけ?」
「んーと、来月の15日からです」
頭の中にダイアリーでもあるのか、ソヒョンが中空を見つめながら自信たっぷりに言う。
「じゃ、全然イケなくね?」
ヒョヨンがバナナ牛乳を口でくわえたまま、妙な腰つきで踊ってみせる。
「やめてくださいよ、オンニ!」
ソヒョンがあきれ顔で言いながら、目の前でユラユラするヒョヨンの尻をはたく。
「イテッ!」
思わずそう言ってしまったヒョヨンの口元から、まだたっぷり残ったバナナ牛乳がリビングの床へ落下し、派手に中身をぶちまけた。
「ちょっとーーーーーーーーーー!」
飛沫でもかかったのか、ジェシカが足をバタバタさせて怒声をあげる。他のメンバーも思わず後ろに飛びのきながら、口々に批難の声をあげる。
「悪いのは、このコだって!アタシは悪くないって!」
両頬を膨らませて自分を睨むソヒョンを指さしながら、必死に同意を求めるヒョヨンであった。

その頃、バスルームでカラスの行水の準備をしていたサニーは、リビングでの騒ぎに耳を傾けて、やれやれとでもいうような顔で、身に着けていたものを全て脱ぎ棄て、鏡の前でガッツポーズのようなおかしなストレッチをはじめた。
「うー。最近、トレーニング怠けてっからヤバいなあ」
鏡の向こうでエッチラオッチラ上下を繰り返す自分の姿を眺めながら呟いていると、不意に脱衣カゴに放り込んでいた携帯が鳴りだした。
「もう、誰よ。こんな時に」
脱いだ下着の下に埋もれている携帯を、ごそごそ手探りで探しながらスピーカーモードにする。
「はいはーい。スンギュですけども、どちらさーん?」
「・・・・」
電話の相手が一瞬無言になる。
「もしもーし?」
「あのさ・・・」
聞き覚えのあるその声に、にんまりしながたサニーが言う。
「ナルシャオンニじゃーん!ひっさしぶるー!」
「なんだよ、その"久しブル"って!」
エヘヘと妙な愛嬌を振りまいていると、電話の向こうのナルシャが言う。
「・・・ま、いいや。あのさ、ちょっとヤバいことになってるわ」
「も~、どうせまた、可愛い少年からかっちゃったら本気になっちゃったとか、そういう話でしょ?」
「じゃないわい!」
「じゃ、あれ? ほら、前に言ってたストーカーのオッサン?」
「そっちでもない!あのさ、時間ないからササッと言うけど、ユリがさらわれた」
「なによそれ~!ユリがさらわれたってwww」
勢い余って笑い飛ばした次の瞬間、我に返って聴き直すサニー。
「いま、なんて言いました?」
「・・・ユリがさらわれた、って言いました!」
「マジでですか?」
「残念だけどマジだよ。アンタ、ウォンって軍人知ってる?」
その名前を聞いた瞬間、サニーの脳裏に怒涛のような映像が次々と溢れ出す。
「・・・あー・・・思い出したくないけどね」
不意に冷静な声音になったサニーに気付いたのか、ナルシャが言う。
「つい、さっきだよ。あたしは訳あって解放された」
「な、なんで、オンニだけ?」
「詳しい話は落ち着いてからまた電話する。とりあえず、急いで行かないといけないとこがあるから」
「ちょ、ちょっと!」
慌てて携帯を覗き込んだサニーは、その時ようやく携帯画面にナルシャの顔が表示されていることに気付いた。
「?」
そのリアクションを見て、携帯の中のナルシャが呆れ顔で言う。
「だから言おうと思ったのに、テレビ電話になってるよって。アンタ、また乳デカくなった?」
「うるさいっ!」
着信した時に無言になった理由を今察し、顔を真っ赤にしながら反射的に通話を切断するサニー。混乱のあまり自分から通話を切ってしまった事も忘れ、
「ありえない!絶対ありえない!・・・というか、そんなことより皆に知らせないと!」
ドタバタとバスタオルを体に巻き付けてバスルームを飛び出すのだった。

事務所からの帰り道。すっかり暗くなった歩道を行くティファニーだったが、はたから見てもそれとわかるほど、どこか機嫌が良さそうだ。笑みを隠せない口元からは、歌でも飛び出しそうである。その上機嫌の理由は、事務所で渡された1通の封書であった。バッグにしまうこともせず、大事そうに両手で胸元に握りしめている。差出人はミンスであった。消印は月尾島だった。二人でずっと一緒にいたはずなのに、いつの間に投函したのか不思議だったが、それ以上に、ミンスからの便りに胸がときめいた。暗がりに見えるはずもない、ミンスのクセのある文字を脳裏再生してみる。
「おっとととと」
危うく通り過ぎてしまった宿舎のエントランスに、後ずさりして戻る。
「見られたら収集つかなくなるからね」
そう言いながら、封書に軽く口づけをすると、ようやくバッグに滑り込ませ、抑えきれない満面の笑みのままエントランスの認証ロックを解除するティファニーであった。

一方、そのミンスも、金浦空港からタクシーで9人の住むマンションを目指していた。さんざっぱら急げと注文をつけまくったせいか、さっきから無言だ。おかげで、電話に集中できた。
「・・・事情は分かった。解ったが、どうしてまたアイツらを?」
ミンスは胸を締め付けられるような感情と闘いながら、電話の相手、ジョンヒョンに問った。
「話せば長い。とにかく彼女たちが必要なんだ」
電話の向こうでジョンヒョンが言う。
「無茶を言うな!」
思わず出した大声に、運転手がルームミラーを覗き込む気配。
「もう、おたくの大将にも軍から話がいってるはずだ」
「な!?」
「とりあえず、彼女たちを大人しく連れてきてくれ。お前じゃないと無理だ」
「勝手が過ぎるぞ、お前・・・」
「文句はこっちに着いたら少佐に言うんだな」
それだけ言うと一方的にジョンヒョンは電話を切った。「通話が終了しました」の表示をしばし茫然と眺め、窓の外に目を移すミンス。遠くに漢江の灯りが見えている。不意に日本にいる貴恵のことを思い出し、再び携帯に視線を戻すと、意を決したようにメール画面を起動させた。

再び少女時代の宿舎。指紋認証のロックを解除して玄関に辿りついたティファニーのもとへ、リビングから地鳴りのような音を立てて、メンバーたちが駆け付けた。
「残念でした!今日はお土産はないでーす!」
勘違いしてにこやかに言うティファニーの、その胸倉をいきなり掴んでスヨンが言う。
「そんなもんはいいから、ちょっと来な!」
その剣幕に驚いて声も出ないティファニー。なすがままリビングまで引きずられていくティファニー。スヨンのみならず、他のメンバーもどこか鬼気迫る表情をしている。
「よし、ここにお座り」
ソヒョンがさっと引いた椅子に、ティファニーを座らせるスヨン。
「いい?これからアタシが言うこと落ち着いて聴くのよ?」
自分の眼前5cmまで顔を近づけてそう言うスヨンに、ただただ黙って頷いていると
「実はね・・・」
そう言ってスヨンが話始めた。それは、つい数分前に、サニーがメンバーに伝えた話だ。ティファニーはみるみる顔色を失っていく。真剣な顔つきで話しているスヨンだけでなく、取り囲む他のメンバーの表情からも、それがいつものドッキリジョークではないことは明らかだった。

ユリを乗せたワゴン車はソウル郊外の工場地帯の暗がりにゆっくりと滑り込んでいく。濃いスモークガラスで外の景色はまったく見えないせいで、ユリはひたすら指先をこねくり回して、うつむき続けていた。いろいろと目の前のウォンに訪ねても「後で説明する」の一点張りで、話にならなかった。最前からスピードを落としていたワゴンが静かに停車する。ユリも顔をあげて、ウォンを見る。
「着いたようだ。降りてもらうぞ」
ウォンがそう告げたのが合図だったかのように、ワゴンのスライドドアが開き、いかつい格好をした軍人が手を差し伸べる。
「大丈夫」
そう言って、その手をそっと退けるとユリはステップに足を降ろし、車外へと踏み出す。拾った携帯のみならず、自分の携帯も腕時計も取り上げられたせいで、今が何時なのかも曖昧だ。囚われの身になる前より、夜気は少し冷たくなっている気がした。
「こっちだ」
ウォンに言われて振り返ると、ワゴンが巨大で無機質な倉庫に横付けされていることに気付いた。少しの間ためらってみたものの、他に選択肢もなく、すごすごとウォンの後ろに従う。その背後を何人かの軍人たちがついてくる。
「よお。今夜は輝きがイマひとつだな、黒真珠さん」
不意に前方から声がかかり、はっと立ち止まるユリ。視線の先、倉庫の小さな通用口に立っている人物がいる。唯一の街灯の灯りで、その顔を見定めるのに手間取った。
「・・・あなたは・・・」
ようやく、その人物が、あの大阪城ホールでの事件の日に、ミンスと一緒にいた男だと気付く。
「ジョンヒョン・・・さん?」
ユリに言われて、男―ジョンヒョンが照れくさそうに笑う。
「名前覚えてくれてたのか。光栄だな」
場違いなそのセリフに困惑しながらも、ユリが言い返す。
「そりゃあ、ミンスさんにあなたが送ったメールを最初に見たの、あたしですから…」
無理につくった笑顔でそう言ってから、ユリは胸の奥からふつふつと湧き出す不安に気付いた。ウォンが目の前に現れた時にも感じた不安だ。きっと思い過ごしで、なにかの偶然だと思おうとしていたけれど、今、こうしてジョンヒョンまでが現れたことで、偶然ではないと思い始めていた。
「・・・まあ、立ち話もなんだ。君の戦利品を少佐が分析してる間、茶でも飲もうや」
そう言って、左手でドアの奥へと誘うジョンヒョン。彼が言う"戦利品"とは、あの携帯電話のことだろう。いったいあの携帯電話はなんだというのか。そして、テウはどうなったのか。もしかすると、この倉庫にいるのだろうか?
「安心しな。取って食ったりしねぇから」
ジョンヒョンの品のないジョークも気にならないほど、ユリの中の不安は大きくなっていた。

ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。深夜の訪問者に7人は顔を見合わせる。
ピンポーン。
テヨンが帰ってくるのは明後日のはずだ。とすれば、ここにこんな時間に訪ねてくる者は誰なのか。ストーカーまがいの悪質な私生(サセン)ファン対策としてエントランスと玄関のドアを指紋認証ロックにしてあるため、メンバー以外はマネージャーですら入室できないようになっているが、誰か他の住人がエントランスを通過する際に、便乗しようとする不届きな連中もいるのだ。ましてや、ユリがウォンに連れ去られたという話を聞かされたばかりの7人にとって、繰り返し鳴るチャイムは不気味な音にしか聴こえなかった。
ピンポーン。
再びチャイムが鳴る。しかし誰一人、それに応えようとせず氷像のように固まったままだ。数十秒経ち、4度目のチャイムは鳴らない。誰かが大きく安堵の息を吐き出す音がしたその瞬間、携帯の着信音がリビングに鳴り響いた。誰もが口々に小さな悲鳴をあげる中、
「誰よ、オッパたちの新曲着信にしてんの!」
ジェシカに言われ、バツが悪そうにジャージのポケットから携帯を取り出したのはスヨンだった。横を見ると、ヒョヨンが粘着質な流し目でこちらを見ている。繰り返し流れる「Because You Naughty, Naughty」のフレーズ。
「早く取れって!」
ヒョヨンに言われて、首をひょこっとすくめてからスヨンは携帯を耳に当て、次の瞬間、すっとんきょうな声をあげた。
「オッパ!? え? 今のチャイム、ミンスオッパなの?」
チャイムの主のミンスであった。

「絶対、モニター付きのやつにしてもらおう」
開けた玄関ドアから入ってくるなり、ややイラついた調子でミンスが言う。
「ごめんなさい…てっきり・・・」
ソヒョンが真っ先に詫びる。
「ストーカーだって思ったんだろ? 仕方ないさ」
ミンスもソヒョンに言われると、そう答えざるを得ないふうだ。
「ごめんなさい。実は、さっきユリが・・・」
そこまでユナが言うと、ミンスが驚く。
「! お前らなんで?」
「ナルシャオンニから電話があったんですよ」
すかさずサニーが言う。
「ナルシャ?」
そう言いながら、ミンスはウォンから聞いた話を思い出した。
「ああ、そうか。彼女が電話してきたのか・・・」
すべての事情を察しているかのようなミンスの様子に、スヨンが声をあげる。
「オッパ、なんか知ってるんですか?」
そのスヨンを見つめ返して、ミンスが言う。
「ああ。そのウォン少佐から言われて、お前らを迎えにきた」
キョトンとする7人。
「とにかく、今すぐ出かける支度をしろ」
「え?今から? どこに行くんですか?」
ティファニーが言う。少しの間、その困惑した顔を見てから、ミンスは言った。
「・・・ユリが連れて行かれた場所だ」
「ユリは無事なんだ?!」
「ああ、心配するな」
ミンスの言葉に7人が胸をなで下ろす。
「とにかく急いで、支度してくれ」
ミンスが腕時計に目をやって言う。
「もう迎えも来ているはずだ」
「あたしはこのままでオッケー!」
ヒョヨンが言う。帰ってきたばかりのティファニー以外は全員、寝間着代わりのジャージ姿である。
「お金とか持ってかなくても大丈夫?」
そう言うサニーに初めて視線を向けて、一瞬固まりながらミンスが答える。
「・・・ああ。金はいらん。けど、お前は着替えた方がいいだろ」
目をそらしながら言うミンスに、サニーは自分がバスタオル一枚の格好だったことを思い出すのだった。

数分後、マンションの前にスタンバイしていた2台の黒いセダンに分乗し、7人の少女とミンスは夜更けの街へと走り出した。