■『死んでも忘れない』


えだは-s
(乃南アサ:新潮文庫)



<あらすじ>

かつて妻の浮気という男にとって最も屈辱的な理由による
離婚を経験している夫。

母親に捨てられた経験を持ち、
いじめの標的が日々変わる教室の中で
なんとか標的にならないように過ごす15歳の息子。

気を遣いながらも15歳の連れ子と
良好な関係を築く妊娠中の妻。

それぞれにナイーブな部分を抱えながらも互いに支え合って
新興住宅地で幸福に過ごす夫婦と息子一人の3人家族。

しかし夫が痴漢冤罪事件に巻き込まれたことから
幸せな日常の歯車は狂い始める…。




会社・学校・地域と、家族3人がそれぞれ逃げ場がない状況で

無責任な噂に追い詰められ、それが原因で

お互いを信じる心すら失って家庭が崩壊してゆく様が

これでもかと描かれる。



元々不安や疑心といった人のネガティブな面とか

人がどうしようもない環境で追い詰められてゆく様を

描くのが抜群に巧い作者だけに、

事態が悪い方へ転がり出した時の圧迫感・気鬱さは半端ではない。



しかも誰かの明確な悪意が原因ならば

「こいつをなんとかすれば」という解決の道も見えるのに

他人の無責任な噂という実体のないものが原因だけに、

解決のために進むべき道すら見えず、

負のスパイラルを止める術が見つからないのである。


これが辻村深月とかなら最後はハッピーエンドだろうって

安心して読んでいられるけど、

約60%の確率でバッドエンドを迎える乃南アサだから

どうなってしまうのか本当に予断を許さないから、

なおさらツラい。



読み進めててホンット心臓に悪いというか

鳩尾がグゥゥって下から圧迫される感じだった。


精神的にキツい状態にある人には
読むことはオススメしません。