絆・・

たかやまじゅん


2024年9月16日

 江戸後期の戯作者、滝沢馬琴が著した『南総里見八犬伝』は、我が国最長篇の伝奇小説と謳われ、不思議な絆で結ばれた八人の若者が活躍する波乱万丈の物語として、江戸の庶民に絶大な人気で迎えられた。この本を初めて読んだのは、小学生の頃に従兄から貰った世界名作全集の中の1巻で、いまも確り書棚に収まっている。
 10月25日には新たな『八犬伝』が公開予定で、最新技術を駆逐した斬新でスケールの大きな映像であり、若き八犬士の活躍も愉しみとなった。この映画では視点を変え、執筆する葛藤と稀代の絵師葛飾北斎を絡め、家族の絆を交差させながら八犬士の物語を完成させるまでの馬琴の姿を描いた。また山田風太郎原作の文庫本も再版されるそうな。
 物語は室町時代後期の関東一円を舞台に、八人が所持する文字の浮かぶ珠と身体のどこかにある牡丹の痣でお互いの素性を識り、逆境を乗り越え南総に集い里見家を再興させる勧善懲悪の話は、幼い心に深く刻まれてきた。
 八つの文字が表す『仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌』は、人の出逢いと絆の大切さが根底にある。幸い映画や舞台と人形劇、そしてアニメやゲームに至るまで多くの八犬伝と触れる機会に巡り合えた。
 最初に刊行がされたのは馬琴が48歳のときで、これが完結するまでには28年の歳月を要している。この間に出版元が3回も変わり、晩年は失明をしながらも息子の嫁の口述筆記を得て98巻106冊の完成をみた。中でも将来を嘱望した長男が、病にお侵され38歳で亡くなった悲しみは身につまされた。
 そして馬琴が歳月を掛けた営みこそ〝晩学のススメ〟であり、歳を重ねても物事に集中する姿に学ぶべきことは少なくない。心が響き合いお互いに認めるなら、竹馬の友に始まり共に学んだ仲間たち、仕事を勤しんだ人々、趣味を通じた同好の士などこれまで出逢った総ての人に当てはまる。
 それは八人でなくとも十人、百人、千人でもいい。しかし月日が経つと疎遠が生じ少なからず別離も否めないが、これまで培ってきた絆はお互いの命が続く限り繋がって行く。

◎プロフィール

<このごろ> 川端康成『美しい日本の私』(昭和43年)に再び目を通す。声を出して読むうち、言葉の一つ一つが日本の四季を醸し出してくれる。