自分の中で、戦間期を生きた陸軍将兵の中で最も尊敬しているのが樋口季一郎少将です。
 この人が当時同盟国のドイツからの非難をはねのけ、独断で旅券を発券しなければ、シベリア鉄道経由でナチスから逃れた多くのユダヤ人は、満州国国境のオトポール駅で足止めされ、上海からのアメリカ疎開は叶わなかったでしょう。
 この人がそれまでのしがらみに拘り、仲の悪かった帝国海軍と協力しなければ、キスカ島の多くの日本軍将兵は救出されず、当時美学とされていた玉砕を行っていたでしょう。
 この人が敗戦後、日本政府の武装放棄に従って、アメリカ介入までの間、占守島で戦わなければ、北海道はソ連領になっていたかもしれません。
 人生は選択肢の連続と言いますが、これほどまでに人道上正しく大きな選択を選べるでしょうか?
 戦間期の陸軍将兵達は、一方的な見方で、中国戦線での関東軍の暴走やインパール作戦等の悪い事ばかり知られています。
 その一方で、ポーランド戦争孤児の救出やパラオにおける島民の退避、インドネシア独立のために戦った残留日本軍等はあまり知られていないように感じます。
 そういった人道上正しい選択をした先人達を知らないと、たとえここで死んでも、後世に長くその名を伝えられると信じてその身を犠牲に散っていった先人達がとても報われません。