理想的な波面からのズレを、波面収差と呼んでいるわけですが、それは「近視」や「遠視」も表す事ができるし、「乱視」も表す事ができます。

 

黄斑部中心窩のど真ん中から光が出てきたとして、その波面は「近視」であれば凸レンズのような波面だし、「遠視」であれば凹レンズのような波面になる。「乱視」であればプリングルスのポテトチップスみたいな波面になります。

 

 

ここまでは眼鏡レンズを組み合わせたら(大雑把に言えば)波面を理想的な形に直す事ができます。

これはつまり眼鏡レンズで(大雑把に言えば)完全に矯正できるという意味です。

 

目のレンズが理想的な光学レンズのように精密にできているわけがなく、多かれ少なかれ歪んでいます。

 

その歪みは大変に複雑な形をしています。

 

 

この図は「ZEISS iProfiler+」という波面収差測定装置、通称ウェーブフロントアナライザーで測定した、ある方の波面収差データです。

 

理想の波面に対して赤い部分は膨らんでいる部分、青い部分は凹んでいる部分というように、色を使って波面を立体的に表しています。

 

しかしその複雑な形も、単純な形を何重にも重ねた組み合わせでできていると考える事ができます。

 

つまり実際の波面から、比較的単純でレンズで矯正可能な成分を「低次収差」、それ以上の複雑な成分を「高次収差」と分けて考えるわけです。

 

ちなみに上の図はすでに低次収差成分を差し引いた「高次収差」成分だけのデータです。

 

高次収差は眼鏡レンズでは(今の所)矯正できません。

なぜなら眼鏡レンズの光軸と眼球の光軸は常に一致しているわけではなく、眼鏡は固定されているのに眼球は動くからです。

眼鏡レンズに高次収差を打ち消すような面設計をしても、目が動いてしまえば台無しです。

 

しかし屈折矯正手術やICL、白内障手術後のIOLに、波面の情報から収差を打ち消すような屈折面を組み込めば高次収差の矯正もできることになります。

 

天体望遠鏡では大気の揺らぎによって変化する波面にあわせて反射鏡の面を変形させ、無収差の波面を作り非常に高い解像度を実現しています。これを「補償光学」というそうですが、目に関する事でいうと補償光学を組み込んだ顕微鏡を使う事で網膜上の視細胞を直接観察できるようになったんだそうです。