僕たちは3時間半のドライブで聞慶に到着。

桜並木の農道を進み、チョン・ハンボン(千漢鳳)さんの工房へ。

人間文化財(日本の人間国宝に相当)に指定されている陶芸の名匠だ。



 

「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンさんが弟子入りしたことでも知られている。

まずチョン・ハンボンさんの作品が並ぶ陶磁博物館を見学だ。

入場無料なのがうれしい。


ガラスケースに納められた青磁や白磁。

食い入るように見つめるウサギさん。はらはらしながら見守る僕。

焼き物好きのウサギさん、「これ欲しいわね」と、言い出しかねないからだ。





 

幸い、僕の危惧は杞憂に終わった。

チョン・ハンボンさんの娘さんチョン・ギョンヒさんがお茶とお菓子でもてなしてくれた。

彼女は片言の日本語が話せるようで、ウサギさんと会話が弾む。


話が込み入ると、ガイドのキムさんが通訳してくれる。

「父は登り窯で仕事をしているから、行ってみたら」とギョンヒさん。

登り窯のそばに薪を抱えた小柄な男性がいた。



 

その人がまごうことなきチョン・ハンボンさん。

チョン・ハンボンさんは右手を差し出し、握手を求めながら、「よくいらっしゃいましたね」。

予想外の展開に慌てる僕。右手をジーンズでぬぐって、握手を交わす


人間文化財らしからぬ好々爺ぶりに僕は親しみを覚えた。

「どこから来られましたか」「ほう、広島ですか」「ゆっくり見学してください」

美しい日本語がポンポン飛びだす。チョン・ハンボンさんは日本生まれ日本育ちなのだ。





正午過ぎ、僕たちは工房を後にする。

チョン・ハンボンさんは入口まで歩み出て、僕たちを見送ってくれた。

「いい体験ができたね」。ウサギさんの笑顔に僕は無言で相槌(あいづち)をうった。