「人間はどこまで無慈悲になれるのか」

アウシュビッツからの帰路、自問を続けた。


「戦争の狂気」だけに、押し付けるのは簡単だ。


ヒロシマ人として、答えの見つからない重い宿題を背負わされた思いがした。

初冬の日曜日。日本を出てから、もう6日目。

帰国便のフライトは水曜日午前10時だ。


それなのに、まだポーランド南部クラクフにいる。

残された日々は、実質3日しかない。

旅のピッチを上げなければ、日本に戻れなくなりそう。


T上司ランチ漫遊

世界遺産「ヴィエリチカ岩塩坑」。

古都クラクフ南東約15キロのところにある。

1200年代から採掘を始めた世界屈指の地下岩塩坑だ。


地下64メートルから325メートル。

迷路のように入り組んだ坑道は、総延長300キロを超える。

今は坑道の一部を観光客に開放している。


地底探検は観光客が30人くらい集まると出発する。

残念ながら、ガイドは英語、ドイツ語、フランス語のみ。

なんとか英語ガイドのグループに潜り込む。


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まず急な木製階段をトコトコ歩いて地下に潜って行く。

ガイドが何か言っているけど、うまく聴き取れない。

「学生時代、きちんと英語を学んでおけばよかった」と思っても、後の祭り。


100段、150段、200段…。

地底をのぞくと、やわな観光客をあざ笑うように、階段は伸びている。

「降りる時はいいけど、昇る時はどうなるんだろう」。


絶望的な気持ちに鞭打ちながら、階段を降りてゆく。

十数分後、やっと終着点にたどりついた。

坑内の気温は摂氏2度だというのに、汗をびっっしょりかいていた。


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ここから坑道を進んでいく。

四方八方に、迷路のように伸びる坑道。

ガイドなしには、二度と地上には戻れないだろう。


坑道の壁や天井にはノミで刻んだ跡が今も鮮明だ。

壁からは鍾乳洞のように塩の結晶が露出している。

したたり落ちる水滴をなめてみた。かなり塩辛い。


でも、うまい。

多彩なミネラル分を含んでいるためだろう。

天井には岩塩を刻んで作ったシャンデリアかかり、坑道をぼんやり照らしている。


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坑道の壁には、聖人たちの彫像が並ぶ。

ポーランド伝説の一場面を再現した彫像もある。すべて岩塩でできている。

採鉱者たちが自ら刻み、日々の安寧を願って祈りを捧げていたのだ。(続く)。


【写真1】地底深く続く木製階段。何段あるのか、想像もできないくらい深い

【写真2】地底で 待ち受けるガイド。30人くらい集まると出発する


【写真3】坑道入り口ゲート。ここから長い坑道が始まる

【写真4】迷路のような坑道。ガイドなしには二度と地上には戻れない

【写真5】坑道を 照らすシャンデリア。採鉱者たちが岩塩から刻んだもの

【写真6】聖キンガの像。ポーランド王の娘で、この岩塩坑の発見者と言われる