『紙袋のワウワウ、通じぬタイ語、5555』
昔日のことにござんす。友人より「ワウワウペダル」なる魅惑のサウンドエフェクター(※足を動かすだけでギターが「ワウワウ!」と奇声をあげる最高の玩具)を譲り受けた私は、これを紙袋に厳重に収め、赤ん坊でも抱くかのように両手で愛おしく抱え込み、恭しく持ち帰っていたのである。
ところがどうだ。道中、突如として猛烈な便意という名の変調(ディストーション)が私を襲った。
見渡せば眼前に光り輝くパチンコ屋。天の助けとばかりに店内へ躍り込んだものの、初見の店ゆえ便所のありかがサッパリ判らない。私は大切なエフェクターを胸に抱いたまま、「ワウペダルは素晴らしい、まるで人間が叫んでいるようだ!」などと脳内で変拍子リズムを刻みつつ、不審な目つきで店内をウロウロと徘徊していた。
その時である。
空間がサッと氷点下まで冷え込んだ。
台に向かっていた強面の客どもが一斉に首を跳ね上げ、顔面を硬直させてこちらを凝視している。店員までもが怯えているではないか。店内を支配する、ただならぬ重圧とヘヴィな緊張感。当時のバカな私は、己の便意のことで頭がいっぱいであり、その異常事態に微塵も気づいていなかった。
後年、ふと思い返して膝を打った。
重そうな謎の紙袋を胸に抱き、変態的な眼光で店内を練り歩く男。外からは中身が一切見えない。客観的に見てごらんなさい。これはどう見ても、**「チャカ(拳銃)を忍ばせて殴り込んできた狂気の殴り込み犯」**そのものではないか。
中身はただのワウワウペダルである。私にとっては宝物でも、パチンコ屋の客からすれば死を運ぶ危険な包みに過ぎない。店内を恐怖のどん底に叩き落としたのは、ワウを抱えて便所を探し回っていた、この私め(愚かなる変態ギタリスト)のせいなのである。あな恐ろしや。
――と、ここまでの「完璧な滑らない話」をだ。
先日、ギターを教えているタイ人の生徒に、日頃の練習の成果を見せつけるべくタイ語で意気揚々と語って聞かせたのである。
「ポム……トゥー……トゥン・グラダート……パチンコ……ホンナーム……ガン(銃)! 555!」
単語を途切れ途切れに繋ぎ合わせ、必死のジェスチャーを交えて熱弁を振るう私。しかし、目の前のタイ人弟子は、まるで「17/16拍子のタッピング奏法」を初めて見せられた時のような、深く複雑な「???」という表情を浮かべるばかり。
「……先生、それは、何の練習ですか?」
伝わらない。何ひとつとして伝わっていない。パチンコ屋の緊張感も、ワウペダルเอฟเฟกต์วาวの愛おしさも、拳銃と間違えられた悲哀も、私の拙いタイ語の壁に阻まれて露と消えた。
あまりの悔しさに、私はそっとカンペを取り出し、画面を見せながら怒涛の種明かしを試みたのである。
"ผมถือถุงกระดาษใส่ Wah-wah pedal เข้าไปในร้านปาจิงโกะเพื่อเข้าห้องน้ำ แต่คนในร้านคิดว่าผมถือปืน!"
(ポム トゥー トゥン・グラダート サイ ワウワウペダル カオ・パイ ナイ ラーン・パチンコ プア カオ ホンナーム、テー コン ナイ ラーン キット ワー ポム トゥー プーン!)
💡 訳:
「ワウペダルを入れた紙袋を持ってトイレのためにパチンコ屋に入ったら、店の人にピストルを持ってると思われちゃってさ!」
- ถุงกระดาษ(トゥン・グラダート):紙袋
- เข้าห้องน้ำ(カオ・ホンナーム):トイレに入る
- คิดว่า(キット・ワー):〜だと思う
- ถือปืน(トゥー・プーン):銃を持つ
単語リストまで添えられたその完璧なタイ語スクリプトを目にした瞬間、タイ人弟子は(555)と大爆笑。ようやく私の無念は報われたのだった。
あの時パチンコ屋の店内を凍りつかせたのも私だが、目の前のタイ人弟子の思考をフリーズさせたのもまた、この私。
タイ語の勉強、まだまだ道のりは遠い。ハハハ!
