笑顔で行こう!

 N氏は教会に勤務していた。それは今年の1月2日の事だった。午後六時ごろ、羽田空港で高知へ飛び立つ飛行機の中で出発を待っていた。しかし、時刻になっても飛行機はエンジンをふかさなかった。機長からは、今管制官と連絡が取れない状況になっております。もう少しお待ちください。という放送があったきり、30分経っても1時間経っても動かない。電子機器のスイッチを切るように言われているので、携帯で情報を取ることもできない。1時間半が経ったころやっと機長から、携帯のスイッチを入れて自分で情報を取ってください、と連絡があった。携帯を見てみると、大変なことが起こっているのがわかった。自衛隊機と旅客機が衝突し、旅客機が丸ごと炎上しているのである。

 やがて機内にも薄い煙のようなものが入って来た。いったいこの飛行機はどうなるのだろう。不安の中、最近の教会で言われている御教えを思い出した。それは”笑顔”、どんな時も笑顔になり、人にも笑顔を向けましょう、という御教えだった。

 こんな時一人で笑顔になったって何の役に立つのだろう、と思ったが、そこは御教えである。勤務者として人に教えを説いている以上、自分も実践しなければならない。

 

 そして、N氏は自分でニーッと無理やり笑ってみたのである。作り笑いである。でもしようがない。今はこれしかできない。そうしてニヤニヤしながら、御守護神様、御守護神様とお祈りしていると、不思議と心配する心がなくなった。何だか大丈夫だと思えてきたのである。


 その後何のアナウンスもなく、3時間半が経った時、やっとこの便は欠航となります、と連絡が入った。その時管制塔自体が大混乱で、何の連絡も入らなくなっていたそうである…。


 それからは空港に戻ったが、払い戻し、買い替えを求める人で空港は大混雑。一つしかない窓口に何千人もの人が並び、いつになったら買えるのかも分からず、とりあえずスマホで次の朝の便を新規で買うことに決めた。何と高知の一便だけがまだ欠航になっていなくて取れた。更に、泊まれるホテルをスマホで探すも、空きがあると思ったらすごい勢いで埋まって行った。運よく一部屋を抑えることが出来、あとは、欠航になった便の払い戻しだ。これもスマホでできることがわかり、いろいろ操作していると、最後に予約を取った時の領収書についている12桁の番号を入力せよというのが出た。そんな領収書のようなもの、取っているはずがない。でもそれがないと払い戻しができない。その時、ふと見るとスマホケースに何か紙のようなものが挟まっていた。取り出してみると、それがその例の予約の領収書で、そこに何とちゃんと12桁の数字が載っているではないか。行きの領収書などもちろんない。帰りのそれだけが出てきたのである。これぞ神技、と神様に感謝しながら払い戻しも終わり、無事高知へ帰りついたのである。

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 Aさんは、Nさんの講演会を聞いて、自分も笑顔の実践をやってみようと思った。そうして家で笑顔の実践をし始めてから、娘が、「教会がネールサロンに近いから、外食してからネールサロンに寄るついでだから。」と言って自分で参拝するようになった。

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 Yさんには4歳と6歳になる娘がいる。いつも夜寝る時間になると、ぐずってなかなか寝てくれない。いつもイライラしてつい怒ってしまうのであった。ある時、そうだこんな時こそ笑顔の御教えをしなければと思ったのだが、笑顔になれそうもなく、ともかくニッと作り笑いをしてみた。すると上の女の子が抱き付いて来て「お母さん大好き!」と言った。

 作り笑いでもこんなに喜んでくれるのだ、とYさんも嬉しくって子供をぎゅっと抱きしめたのである。

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 Kさんの職場には、いつも飴をクッチャラ、クッチャラ舐めるおじさんの職員がいて、気持ち悪くて嫌だった。その時そうだ笑顔の実践だと思い、そのおじさんにも気持ちのいい笑顔であいさつするようにした。するとそれから、クッチャラ、クッチャラしなくなったのである。

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 私は朝新聞配達の時間は、暗いし眠いし、いつも同じルートだし(当たり前だが)、気分が沈むのだった。でもこんな時こそ笑顔の実践をしなければならないと思い、何も楽しいことはないのに笑顔を作るのだ。そして御守護神様、御守護神様と祈りながら、今日もいいことがあるぞう、「おはようございます!」「ありがとうございます!」と言う。そう言えばまだ借金が払えていない。今月の家賃は払えるのだろうか…。そうだ。あの子もう来なくなるかも…。いやなんとかなる。絶対にいいことがあるに決まっている。困ったことにはならない…。と思う。


 なぜなら、ぼくは笑顔だからだ!