刺客


 そこはいつも人の集まる場所だった。春のある日、Aさんは大きな鍋いっぱいのフキを煮ていた。7時間煮るのだそうである。それからおいしい佃煮を作って皆にあげていた。山菜採りが趣味だったのである。

 

 その人はいろいろ問題を起こしたと排斥されていた。でもいつも支持者達は彼女の家に集まっていた。

 

 私は彼女をもう一度復活させ、皆と一緒に活動できるようにと、彼女の家に2月と空けずに通っていた。

 

 1年が過ぎた。彼女の疑惑は一向に晴れず、彼女は相変わらず活動しなかった。私は業を煮やし、そもそも彼女をお役から降ろし、追及した三代様を批判した。それが所長の耳に入り、私は所長に「二度と三代様を批判したら、あらゆる役職を即降りてもらう。」と言われた。私はいろいろなお役を忙しくやっていたから、それは困るなと思った。

 

 それから所長は、私の問題を大きく取り上げ、皆にこんなことを言った役員がいた。二度とこのような三代様批判をしてはならない、と言った。それからしばらくして、信者の月に一度集まる一番大きな集会で、所長はAさんのグループが三代様を批判し、分派を作っていると批判した。

 そこに来ていたAさんは、二度と参拝しないと言った。

 また更に所長は、Aさんのグループが分派活動を行っている。Aさんから電話があっても決して出ないようにという文章を、ラインで全役員に回すように言った。

 

 その頃、ちょうど来年の御札の更新作業を行っていた。全信者の来年の御札のお金を集めるのである。ところが、またラインでAさんのグループが全員退会した、という情報が流れて来た。私はびっくりしてAさんのグループの一人に電話をして確かめた。

 その後Aさん自身からも電話があり、あなたのお陰で私達が三代様を批判した様に言われている。あれはあなたが一人で言ったことで、私達が言ったのではないと所長に言ってくれ、と言った。

 

 私は早朝参拝の後、所長に立ち話で、Aさんのグループは三代様批判をしたことはない、あれは私一人が考えて言ったことだ、と言った。すると所長は、口で言わなくても、御奉仕に出て来ないことが御教えに反し、三代様批判になっていると言った。

 Aさんと一緒に辞めるグループにはかつて私がリーダーだった時、とても良く歩んでくれたBさん等もおり、私はBさんまでがAさんに同情し、この所長の下では歩めないと思い辞めるのだと思い、何とか所長とAさんが話し合い、辞めなくて済むようにして欲しいと思った。

 それで翌日、再び所長を問い詰めた。まず御奉仕に出て来ないと三代様批判になるという論理がおかしい、ということを言った。役員でも御奉仕に出て来ない人はたくさんおり、その理由も単に熱心でないとか、必ずしも三代様批判をしている訳ではないからである。すると所長は、「言葉で言わなくても、集まって徒党を組み、御奉仕に行かなくてもいい、と言っている情報は入っている。行動自体が批判になっている。」と言う。

 また、裁判でも弁護人が付き本人の証言を聞くのに、Aさんの話はちっとも聞かず一方的に決めつけている、と言うと、「証拠は上がっている。既に疑いの余地のない規則違反の信者相手の商売や、パワハラの情報が上がっている。本人がそれを認め、反省しない限り話を聞く必要はない。ここは裁判所ではなく、信仰である。話を聞いて欲しかったら、新たな証拠を持って来なさい。」と言った。

 さらに私が「批判を一言も口に出していなく、この一年間ひたすらおとなしくしていたのに、ここに来て反逆者のように言うのは、Aさんを追い出そうとしているのではないか。」と言うと、「そうだ。」と言う。自分はそのために来たのだ、と言う。

 

 そうして私は本当は心正しく、教会のために一生懸命歩んで来たAさんが、その少し癖のあるワンマンさとパワーで、信仰の活動を歪曲したと誤解されたのだと思い、一緒にやめて行く人達のためにも納得できないと所長に抗議したのであるが、実はその前に私は、早朝参拝で、礼拝室で教祖の御写真に一生懸命お祈りしていたのである。

 すると、教祖のお髭を生やした初老の御顔が、三代様の中年の丸顔の、にこにこと笑われた顔に変わったのである。私は三代様って教祖に似ているんだ、と思った。しかし後で考えると全然似ていない。しかも本当にお優しい笑顔で微笑んでくださった。

 私はこれは教祖と三代様は一体であるというメッセ―ジだと思った。

 

 しかも三代様には、教祖が付いているとしか思えない不思議な現象が何度も見受けられた。ある時所長が三代様に工事の見積書を提出した時、他の支部はすっと通ったのに、所長の時だけ手がぴたりと止まり、「見てないでしょ。」と言われた。実は所長は忙しくて、その時業者の出した書類を足し上げチェックすることなく、そのまま出していた。そこで所長はすぐに、「すみません。やり直します。」と謝った。そこでもし嘘をついたら、所長の首など即座に飛んで行くそうである。

 

 またある時は幹部の一人の家族が、葬式で遠地に帰る時、その行きの便と帰りの便の飛行機を、三代様がわざわざ指定された。「いいか、絶対に変えるなよ。」と言われた。その人達はマイルがたまっていて、無料で帰れるのに、三代様の言われた便で帰ると24万円新たにかかった。しかし、実際は悪天候のため、行きも帰りも、三代様の指定されたその便しか飛ばなかったのである…。

 

 これらのことから、私は三代様にはAさんの行いが見えていたのではないかと思う。そうしてAさんがそれらを否定したので許されなかったのではないか。私達から見ればそれぐらいのこと、と思えるかもしれないが、大きなお役をやっていた人として、教主たる三代様に嘘を付くということは、神に対する冒涜として許されなかったのではないか。

 教祖は神通力を持った真の神であり、三代様が教祖と一体であり、所長は自分の考えでやっているのではない、これは三代様の意図を受け、御指示を受けながらやっていることなのだ、と言われている。すると所長も一体なのである。

 

 もうAさんに勝ち目はないと思った。私は翌日所長に謝り、この問題は私の中ではスッキリと解決した。しかし、Aさん達は納得していない。そして信者まで引き連れてやめてしまうのである。

 

 神はこの末法の世を救うため、救世主を降ろした。その方は18年の御苦行の末、神の御分神として神通の力を持たれ、この世に救いの道を開かれたのである。そして、自分を通じてしか大宇宙の神には通じない、と言われている。

 

 自分の意地とプライド、そうして今までの実績と仲間を捨てられなかったAさんは、その明るい性格と面倒見の良さ、(私にはいつも、「塾が成功するように祈っているからね。」と言ってくださった)にもかかわらず、これから神の道を外れて行かなければならない。それが残念でならない。私はこれらのことをラインにして、Aさんのグループで親しい人達に送った。戻って来て欲しいと。でも返事はまだない。

 私はあんなに熱心だったAさんが、しかも、たくさんの信者さんを連れて辞めることが信じられない。

 これから彼らが歩む道は、おそらく苦難の道になるだろう。

 そして私が望んでいた融和の道はもう閉ざされてしまったのである…。(三代様は過ちを認め反省すれば暖かく迎え入れると言われている。しかし、Aさん自身が戻る事はもうないだろう…。)