68歳、遠泳で永遠の別れにならないために!

 

 今年の夏こそ泳いでやろうと考えていた。何せ三足の草鞋(新聞配達、ホテルの客室清掃、学習塾)を履く身だから、あまり空いている日がない。休みの日はたいがい信仰のご奉仕や行事が入っているからだ…。いろいろスケジュールを見ていて、この日しかないと思ったのが、7月28日の午後だった。

 去年はお盆に夕方5時頃、近場の堀江の海水浴場にバイクで到着すると、あまり人がおらず、水が大変冷たくしかも土色に濁っていて…、とても泳ぐ気にはなれなかった。

 今年は早めに計画が立ったし、そうこうすると生徒が休むという連絡があり、6時まで暇になった。午前中の予定を終えていったん家に帰り食事をしていると、また礼拝所に行かなければいけない用事を思い出し、愛車の50CCスーパーカブで出かけて行った。片道20分ほどかかる。

 用事を片付け、銀行でお金を下ろして、(最近高校入試まで7カ月間一括28万円コース、県立上位3校合格保証付き、不合格なら全額返金。)というコースに応募があり、入金まで確認できたので、そのお金の半分以上、15万円を下ろして嫁に渡した。)いったん家に帰り、嫁にお金を預けた。というのは塾の元の大家さんに滞納が35万円ばかりあり、嫁はそれを返すお金を貯めろと言っていたのだ。

 私は高校に合格しなくて返金しなければならなくなった時のために、その15万を借金の返済に充て、そのカードは30万までの枠があったから、いざとなったら30万借りれるようにしておきたかった。しかし、嫁にその借金の話はできず、30万の枠がある話だけしたら、私が15万預かっておくから、あと15万借りたらいいでしょ、と言われた。それでもまあ、同じようなものだから同意した。嫁はどうも私にお金を持たせたら全部使ってしまうと心配しているのである。

 

 ともかくお金ができたので、前から気になっていたバイクのオイル交換をするついでに、信仰の仲間のそのバイク屋のHさんに前回の未納の1万2千円も払いに行った。バイク屋の店は堀江に行く途中にある。

 

 オイルを入れてもらい、バイクは調子よくなったが、なぜか排気ガスに白い煙が出る。Hさんも気にしていたが、こちらは何とか泳がなければならないので、いつまでもエンジンの調子を見ているわけにもいかず、そそくさと出発した…。

 

 携帯の充電ができていなくて、電池が切れそうだった。途中で緊急長持ちモードにしたが、道がわからなくなったので、最後の電池でナビに切り替え、正しく堀江海水浴場に向かっていることを確認した。

 

 時刻は3時近くになっていた。最近大変暑い日が続くし、嫁は日差しが強いからお昼頃は避けた方がいいと言うので、ちょうどいい頃ではなかろうか。

 

 海水浴場は広く、堤防から堤防までおよそ1キロメートルあり、その間に人はまばらで、4、5人ずつのグループがぽつんぽつんと3、4か所居るぐらい。ウィンドサーフィンをしている人もいた。前はこの堤防と堤防の間を泳いだ。今回も泳ぐつもりだ。。

 

 水は思ったより冷たい。何せ2年ぶりに泳ぐのである。足でもつって溺れてはいけない。一人準備体操をしてからゆるゆる水に入って行った。

 

 最初の堤防の端まで泳ぐと、結構距離があった。そこから帰るだけでも2、3百メートルありそうに見える。いざとなったら帰れるだろうか。

 

 そこで私はまず陸までの距離を縮めることにした。斜めに泳ぎ、陸までの距離の半分ぐらいを泳ぎ、そこからさらに海岸に平行に泳いだ。結構進んだ気がしない。いつまでも海岸にいる人が横に来ない。

 平泳ぎで泳いでいるが、できるだけ力を入れずに、手は浮力をつけるだけ、主に足で進もうと思った。疲れると溺れるからである。

 

 焦らずに泳ごう。疲れるのでさらに陸に近づく。ここなら子供連れで泳いでいる女の人に、叫んだら聞こえる距離だ。いざとなったら、「溺れる!助けて!」と叫ぼう。そう思うと少し安心した。

 

 さらに岸に近づくように、斜めに泳ぐ。

 延々30分か40分も泳いだだろうか。やっと反対側の堤防のごつごつしたブロックにたどり着いた。もう足が着く深さだ。

 

 無事に泳ぎ切り、家に帰ると、嫁が心配していた。そして、行方不明になったら3年間は死亡届が受理されないので、死ぬなら死体を残して死ぬように、と言った。行方不明では離婚できず、3年間は私の借金を払い続けなければならないからである。

 

 この話は面白いと思い、翌日知り合いに話したが、あまり受けなかった。真面目に取られてしまったようである。

 さらにバイクはピストンリングの3番目、オイルを止めるリングに隙間ができていて、オイルが燃焼室の方に漏れるので白煙が出るそうで、修理代がまた数万円かかることになってしまった。エンジンオイルを替えるのが遅すぎた…。バタバタ音がして心配だったのだ。

 

 一難去ってまた一難。泳いだ疲れはさほどではなく、労働の疲れよりも、変に凝ったところがなく、気持ちの良いものだった…。