中3生が転校することになった。成績が抜群に良かったのだが、学校でいじめに遭い、学校に行くのが嫌になった。学校の先生は、はっきり証拠がつかめない限り指導出来ない、と言って何もしてくれない。親は転校も考えていると言う。私も転校を勧めた。陰湿なこそこそ噂をするようないじめ、それを無視することもできない。私も中3生の時にノイローゼになった。高松から転校して来て、回りが気になり出すと気になってしようがなくなり、視線恐怖症、対人恐怖症などになった…。そして県立のトップ高に入ってから、成績が急降下した。彼もそうなって欲しくない。

 家ごと引っ越して6月の12日には、別の中学校に行くことが決まった。うちの塾には遠くなるが、慣れるまで週1回ぐらいで通うと言っていた。

 6月5日月曜日、夕方塾に居てふと思いついた。その子の行く学校の校区に、私の元の大手塾の先輩が最近塾を開いていた。それは、私と同じ塾のシステムを導入した塾で、いわば兄弟塾のようなものだった。そこを紹介したらどうだろう。優秀な先輩だから間違いはない。他の塾を見つけるより早く勧めなければいけないと思い、先ず先輩の塾に電話をして、中3生を一人受け入れて欲しい旨を伝え、それから生徒の父兄にラインで先輩の塾を紹介し、是非そこを訪ねて欲しいと伝えた。

 すると間もなく一本の電話があり、それが私の塾への問い合わせの電話だったのだ。学校の勉強に付いて行けなくなっているので、個人でベテランの先生に教えて欲しいので、ネットでこの塾を調べたのだと言う。たまたまその日の生徒がまだ来ていなかったので、30分程電話で喋り、結局次の日に面談と、体験授業に来ることになった。

 

 翌日は、その転校する子と、新しい子の面談と授業だった。新しい子は、私立6年間一貫校の中1生の女の子で、公立より速い速度で授業が進んでいるが、数学の正負の数が全くわかっていなかった…。小5あたりから勉強しなくなり、私立には通ったのだが、全く付いていけないと言う。小5の頃何かありましたか、と聞くと、最初何も言わなかったが、後でこっそりと、学校には内緒にしているのですが、実はその頃離婚しました、と言われた。子供は一人っ子で、それまでは良くできる子の友達ばかりで、皆私立に行ったと言う。それが4、5年生あたりからやる気がなくなり、目付きまで変わったと言う。

 

 ともかくもテストをしてわからなくなっているところから始めましょう。大丈夫ですよ。学校の勉強に付いて行くのは時間がかかるかも知れませんが、ともかく正負の数はまずわかるようにしましょう、小学校でのつまづき箇所も、同時に少しづつやって行きましょう、と話した。そして結局入塾することになったので、月謝を計算した。母子家庭なので、3千円の減免が効く事を伝えると、「そんなに引いてもらっていいのですか。」と言うから、少し惜しくなったのだけれど、規定通りにした。

 

 その週の金曜日、転校する中3生のお母さんからラインが入り、今日で塾は最後になるので月謝を計算して欲しいと言う。ああ、本当に辞めてしまうのか。きっと元の校区で同級生達に会いたくないのだろう、引っ越しもするのもそのためだろう。本人も、どこの中学校に行ったかは言わないでくれ、学校には親の仕事の都合で転校する、と言ってあると言う。

 それで月謝を日割りで計算した。およそ毎月の3分の1ぐらいになった。

 

 その日は新しい子の初授業と、転校する子の最後の授業だ。両方の親が来て、どちらもお礼のお菓子を持って来た。月謝も持って来た。新しい子は日割りで9分の7にした上母子減免で、3千円引いた。1万円と少しになった。転校する子は7千円と少しになった。足すと、元居た子の1カ月分を少し越えた。

 しかし、来月からは女の子の母子減免3千円分だけ月謝が減るなあ、と頭の片隅で思っていた。

 

 その子たちが帰った後、10時頃に電話が入っていた。気が付かずに、翌朝見ると女の子の母親だったので、電話をすると、今行っている他の塾を辞めるから、来月から週3回にしたい。料金はいくらになるか、という問い合わせだった。週3回だと母子減免をしても、通常の週2回料金より2千ほど高かった。

 結局、月謝はちっとも減らなかった。

 

 これは神様のお陰だ。私がいじめに遭っている子を心配して、転校を勧め、しかも友人の塾を紹介した。そのことによって、私が少しも不利益にならないように、神様が助けて下さったのだ。神様ってすごい!このタイミングでぴったり生徒が来るなんて!神様って、何でもできるんだ!

 

 しかし、ならばなぜこんな赤字の借金が増えるか少なくとも減らない状況で、もう少し、せめて後1名か2名、生徒が増えないのだろうか…。

 

 神様は私に楽をさせたくないのであろう。そう言えば先月信仰の体験解説員で一緒だった女史に勧められたビデオの講話に、「吾唯足るを知る」と言う話があった。信仰の幹部さんが、教祖に口の回りに、口を共通にして4つの文字が書かれてある湯呑を頂いた。右回りに読むと「吾唯足るを知る」と読める。しかしその言葉の本当の意味を知ったのは10年後だった。その間その幹部は、教会員を辞め自分で事業を始めたのだが、失敗の連続で、しかも病気で3回も死にかけ、ついに生きるためには教会に帰って来るしかないことを悟り、許されて戻って来た人なのである。

 

 「全て神様にお任せして、自分の我欲を捨てれば、何の心配もいらないし、楽しく豊かな境地に入れる。」と言う意味だそうである。

 

 神は私にまだまだ、努力をせよと言っているに違いがない。

 

 ともかくも、今回のことで窮地に陥ることは全く無く、その日のお菓子はいくらか自分と嫁で分けた後、今度娘が初めて彼氏を連れて来るので、その時のお土産にしようと、嫁がいそいそと詰め替えていた…。