走る、俺達

 

あの日、僕は車の運転をひたすらしていた。僕は30歳、だけどその前にやったことのあるのは約2年半の工場労働者だけ。車の運転は上手ではなく、隣に座った先輩にいつも怒られていた…。

 

自分が何に向いているのか、自分なりに考えたのが自分は理系が得意だから、機械関係。それもその当時まだ新しかった空調関係が面白いかと思った…。

 

でも、やることは職人仕事で、見て覚えよ、と言われた。だから仕事なんか教えてくれなかった…。

 

毎日車の運転をして、先輩と仕事場に行き、道具を運んだり、出来ることを手伝う毎日。自分がこの仕事で一人前の親方になれるとは、とうてい思えなかった…。

 

 

人生、何がいいやら、どこで成功するやら分からない…。

 

今、ホテルで毎日ベッドメイキングその他客室清掃をしている。週休3日、と宣言したのだが、休みが2日までならいい、と言っていた。

 

昨日、本職のOさんが仕事中に、「ゆうさん。今週6日と10日、出てくれと言ったら出れますか。」と言って来た。僕は特に入れている用事はなかったので、「いいですよ。」と答えた。

 

でも本当は、今週風邪をひいていて、しかも今は自営の塾の夏期講習中で、毎日4~5人は生徒が来る。そう余裕が無い所に来て、英語の予習だの、速聴の練習だの、自分で決めたルーティンワークをやっていると、寝る時間が朝の4時とかになってしまい、朝10時からのホテルの仕事がきつくなって来ている…。

 

そういう訳で、6日の月曜日はどうしても休みたかった。塾は日曜だけが休み。(ホテルが午後3時半ごろ終わってから、4時半から塾をする。)だから、丸一日休めるのが、この日、月に限るのだ…。

 

今日Oさんが仕事中、「ゆうさん、6日は休んでもらって、10日の金曜日、出れますか。」と言って来た。それで僕は「いいですよ。」と答えた。そして、ああ、月曜だけは休めた。金曜日は休みが飛んでも、その後13日の月曜日は休みを頼んでいる。(嫁と墓参りをする予定。)それに、塾も12日から4日間お盆休みに入る。

 

何とか休めるだろう…。(最近休みの日程だけが気になる…。心待ちにしているのである。)

 

すると、今日の夕方家で休んでいると、チーフのM女史から電話がかかって来て、「ゆうさん。お願いがあるのだけれど…。」チーフのMさんはいつも私に優しくしてくださる。位もたぶんOさんより上だ。

 

「明日6日と、10日来れない? 代わりに9日(木)は休んでいいから。」と。

僕はもちろん、「いいですよ。」と答えた…。

 

でも本当は明日休みたかった。でも、何とかなるだろう。嫁に言ったら、「用事があると言えばいいのに。」と。それでも「休みたかった。」と言うと、「自分が言ったくせに、ぐだぐだ言うな。」と言われた…。

 

ああ世話になっているのだから頼まれたら嫌とは言えないのだ…。これも人生…。俺は義理・人情で動く人間なのだ…。

 

そして、最近無理をしてでもルーティンワークをこなしていることも、何となく将来につながるのではないか、とも思えて来るのである…。

 

 

先輩と車で走り回っていた30歳の頃は、お先真っ暗で、全く将来のイメージがつかめなかった…。

 

しんどさは今も変わらないが、いや今の方が肉体的にはしんどいかもしれないが…。

今は曲がりなりにも、自分の塾がある…。

目標もある…。

 

俺は、まだ走っている…。

俺は、今度こそ、この仕事を物にするかも知れない…。でも、それもわからない。

ただ、今走れていること自体が、幸せなのかも知れない…。