「私、婚約者がいるの。」と彼女が言った。最初は言葉の意味を理解できなかったが、次の瞬間、怒りがこみ上げる。「何でここに来たんだ、帰れ!」と怒鳴って、彼女を追い返してしまった...
長期出張で行った先の事務所に彼女はいた。なぜか気になり、じっと見てしまう。視線が合うと、何もなかったかのように、眼をそらしてしまった。
出張先の上司に、「智美さんです。これから何かとお世話になりますから。」と紹介された。はじめまして、と挨拶する。
すこしずつ彼女と話をするようになり、みんなでお昼を食べにいくようになる。工場の現場でおじさんたちに囲まれてきた自分にとっては天国のようで、とても楽しかった。
仕事柄というか、物を作るのが(壊すのが?)好きで、最近はパソコンを作ったという話をした時、彼女にパソコンの調子が悪いからちょっと見てもらえないかと言われ、ラッキー!と思いつつ、次の週末に部屋を訪ねた。階段をあがり、緊張しながらドアをノックする。ドアが開いて、彼女が現れた。さらに緊張しながら部屋に上がる。落ち着いた雰囲気で、居心地が良い部屋だ。
早速パソコンを見てみる。スイッチを入れる彼女の後ろに立つと、びくっとする。
不調の理由は、立ち上がりのときに設定画面に入ってしまう為で、設定内容を修正して無事に立ち上がるようになる。そんなに難しい内容でなく、正直ほっとした。無事に役目を果たし、お昼ご飯をご馳走になり、お茶をしてから彼女の部屋を後にした。
その後、今度は彼女が自分の部屋にきて、ご飯を作ってくれることになった。かなり舞い上がりながら、彼女を部屋に上げる。すこし話をして、彼女はすぐに料理に取りかかる。
少し男勝りなところがあるけれど、料理をしている姿をみるとやっぱり女の子だなと思う。なんか嬉しくなってくる。
ご飯を食べて、並んでテレビを見る。いい雰囲気だなと思っていたとき、不意に彼女が自分を見ていった。
「私、実は婚約者がいるの。」
一瞬、何を言われたかわからなかったが、彼女の行動と、舞い上がっていた自分に腹が立ち、気がつくと本気で怒鳴っていた...「帰れ!だったら何でここに来た!」
彼女が帰った部屋で、なんともいえない気持ちがこみ上げる。頭が冷えるにつれ、その気持ちがいっそう強くなる。自分は馬鹿だなとか、来週会社でどんな顔をすればいいかなど考えながら、ボーっとしていた。
そのとき、突然電話が鳴る。彼女からだった。「さっきはほんとにごめんなさい。」と謝る。もういいよと答え、大丈夫だからと言い電話を切る。すこしほっとして、そして嬉しかった。
しばらく経って、ドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けると、彼女が立っていた。ビックリして見ていたが、彼女は黙って立っている。そして自分も黙ったまま、彼女を部屋に迎え入れた。
「私ほんとに婚約者がいるんだよ、いいの?」ずるい質問に、いいよと答えた。