神戸物語 | RYUの生き方、逝き方

神戸物語

女はアルマーニをまとい軽くステップ踏みながらクルマに乗り込んできて、

サングラスをずらして俺の顔をのぞき込み目が合うとイタズラっぽく笑った。

女は有無も言わせず相手に何かをあきらめされるオーラを放っていた。

カタヤマ(仮名)はそのあきらめさせるオーラが、好きだったし、

それは何が大切かを明確にしてくれるオーラでもあった。

この女とアメリカ東海岸をドライブしてフロリダまで行けたら楽しいだろうなと思った。

実際女は元CAでソムリエ免許も持ち「制服着てるとゲストが吐いたものまで平気で片付けられるんだよ」

と屈託なく笑うが海外には強かった。

一度アメリカ土産にオーパスワンをもらったが、さすがに美味かった。

カタヤマはアメリカにも美味いワインがある事をはじめて知った。

彼女はキスが上手で、ある意味SEXよりも魅力的なキスだと思った。

彼女は何も求めなかったが、何も与えもしなかった。

その辺がカタヤマとウマがあったのか出会って5年になる。

彼女は不思議な女で彼女といるとあらゆるものにコミットするのが馬鹿らしく思えた。

二人には射撃という共通の趣味があった。

よく週末にグアムまで357マグナム打ちにいった。

44口径を持たせても姿勢がいいので、身体がブレる事がなかった。

カタヤマにとってシューティングの魅力はこの一発ですべて終わりに出来るという至極厭世的なものだ

ったが、

彼女にとってシューティングは精神集中出来るいわば禅だった。

彼女は俺といるとき「わたしたち」という言葉をよく使った。

何が共通で「わたしたち」なのか聞いたこともなかったし、今後も聞かないだろう。

クルマがオークラのエントランスに着いた。

RYU



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