書き下ろし短編小説「魂の宴(うたげ)」
山荘に深夜帰宅すると大勢の来客が俺を待っていた。
六十歳ぐらいの上品な老人が、皆を代表して言った。
「留守中こんな大勢でお邪魔に上がって申し訳ない。今夜は肉体を喪った霊魂達が年に一度この世に生きていた時の姿に戻り、最も愛してくれた人の所を訪れる幸福な日なのです。」
ところが、此処ににいる霊魂達は不幸にも、愛する人も愛してくれる人もいない、従って行くところのない可愛そうな者達なのです。
世には神様に祝福を受けずに生まれてきたこういう不幸な者も少なくないのです。
そして彼等の大半は自ら死を早めた者達ですがね。
こうして此処にいる二十人の者には、折角の幸福の日にも行く所もなくさまよわなければならないわけです。
それでもしご迷惑じゃなかったら、今から数時間あなたのお住まいの離れをお貸しして頂くわけには参りませんでしょうか?
私は彼等の為にささやかな宴を開いてやりたく存知ますので、、、。
と老人は静かに一礼した。
それにつれて一同も私に向かって頭を下げるのだ。
私はあまりの不思議さにただあきれるばかりだったが、その老人のいかにも気高い態度に好感をもたないではいられなかったので、「よろしかったらいつまでもご自由に」
早々の承諾かたじけない、あなたに神の栄光あらんことを。
そのかわりと申しては失礼ながら、あなたも愛した人と暫し間幸福な時間をお過ごしくださるよう。
老人が指さす方を見ると今まで背を向けていた女が私の方へ振り返った。
10年前に別れた時の姿、羞恥を含んだあの微笑みを口元に浮かべて命がけで愛した女がそこにいた。
さああなた方の幸福な時間を十分過ごしてらっしゃい。
老人は扉の方を指さして祝福するように言った。
彼女は俺の手を取ると家を出て行く、
月のない真っ暗な夜、風があるのか森が一面に揺れ動いていた。
「俺は夢をみているんだろうね。」
「いいえ、夢ではありません。私たちはこうして毎年会っていました。ただ肉体のあるあなたは、幸せな時が終わると記憶を消えてしまうのです。」と静かに微笑んだ。
【完】
RYU

六十歳ぐらいの上品な老人が、皆を代表して言った。
「留守中こんな大勢でお邪魔に上がって申し訳ない。今夜は肉体を喪った霊魂達が年に一度この世に生きていた時の姿に戻り、最も愛してくれた人の所を訪れる幸福な日なのです。」
ところが、此処ににいる霊魂達は不幸にも、愛する人も愛してくれる人もいない、従って行くところのない可愛そうな者達なのです。
世には神様に祝福を受けずに生まれてきたこういう不幸な者も少なくないのです。
そして彼等の大半は自ら死を早めた者達ですがね。
こうして此処にいる二十人の者には、折角の幸福の日にも行く所もなくさまよわなければならないわけです。
それでもしご迷惑じゃなかったら、今から数時間あなたのお住まいの離れをお貸しして頂くわけには参りませんでしょうか?
私は彼等の為にささやかな宴を開いてやりたく存知ますので、、、。
と老人は静かに一礼した。
それにつれて一同も私に向かって頭を下げるのだ。
私はあまりの不思議さにただあきれるばかりだったが、その老人のいかにも気高い態度に好感をもたないではいられなかったので、「よろしかったらいつまでもご自由に」
早々の承諾かたじけない、あなたに神の栄光あらんことを。
そのかわりと申しては失礼ながら、あなたも愛した人と暫し間幸福な時間をお過ごしくださるよう。
老人が指さす方を見ると今まで背を向けていた女が私の方へ振り返った。
10年前に別れた時の姿、羞恥を含んだあの微笑みを口元に浮かべて命がけで愛した女がそこにいた。
さああなた方の幸福な時間を十分過ごしてらっしゃい。
老人は扉の方を指さして祝福するように言った。
彼女は俺の手を取ると家を出て行く、
月のない真っ暗な夜、風があるのか森が一面に揺れ動いていた。
「俺は夢をみているんだろうね。」
「いいえ、夢ではありません。私たちはこうして毎年会っていました。ただ肉体のあるあなたは、幸せな時が終わると記憶を消えてしまうのです。」と静かに微笑んだ。
【完】
RYU
