「 ねぇねぇ、おにいちゃん! こんなところに美味しそうな実が生ってるよ! 」

「 本当だ。 めっずらしいなあ~ 」

「 食べてもいいよね? 」

「 おー、数を数えて三等分しろ。 余ったらおまえが食っていいぞ 」

「 わーい 」

「 にいちゃん、水もくんであるよ。 飲んでもいいよね 」

「 水ならどこにでもたっぷりあるから慌てるな 」


仔狸のきょうだいは、台風の被害で食べ物がなくなってしまった山から、仲良く下りてきたのでした。


「 このお花は本物じゃないから食べられないよ、おにいちゃん 」

「 大丈夫、ここはあっちにもこっちにも食べ物がいっぱいある。 山には食べる物がないんだから、たくさん食っとけよ 」

「 はぁーい 」


きょうだいはそれぞれに分れ、あちこちから食べ物を探しては手当たり次第に食べました。

ほおずきは美味しそうな色をしていますが、実には毒があります。

彼岸花にはもっと強い毒があるので、絶対に食べてはいけません。

緑の柴や色とりどりの菊の花、ガーベラなんかも美味しそうです。


空には、まあるいお月さま。

足元は明るいので、でこぼこした石の間を渡り歩いてもケガをする心配はありません。


やがてお月さまのつくる影が伸び始めた頃、きょうだいたちは最初に美味しそうな実を分け合ったあたりに戻ってきました。


「 にいちゃん、ぼく、あっちでお水飲んでて吐いちゃったよ 」

「 わたしも。 向こうでちょっと枯れかけたケイトウの茎を食べてたら、気持ち悪くなっちゃった 」

「 そうか。 昼間はまだ暑いから、水がどれも腐ってたのかもしれないな。 さあ、もう帰ろう 」


きょうだいたちには言いませんでしたが、じつはおにいちゃん狸も真新しいツルツルの黒い石の上で季節はずれのヒマワリを食べていて、急に気分が悪くなったのです。

最初に食べた柿色の実も、ほかの植物と一緒にすっかり吐き出してしまったのでした。


「 急げ。 カラスたちが起き出す前に帰らなきゃ 」


東の空が明るくなってくる気配を感じて、仔狸たちは山へ向かって仲良く走り出しましたとさ。



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以上、うちのお墓に供えてあった造花の実を食べたあと、ほかのお墓へと食べ物を探し歩きながら吐いてまわった、狸たちの災難な一夜を想像して再現してみました (^^;


うちのお墓がある墓所には、冬に向かうこの時期、山に食べ物がないときは小動物がやってくるんですよ。

で、お花とか挿しっぱなしのロウソクとかを食べちゃうの。


夏場は花瓶の水が半日で干上がってしまうので、毎日お墓参りのできない我が家では、生花は供えないんです。

花柴、カラー、カサブランカ、コスモス、スイートピーと、オレンジ色の実をたくさんつけた枝を、すべて造花で供えていたんですけれど・・・どうもその作り物の実が美味しそうに見えたんでしょうねえ・・・。

花は偽者と判ったのでしょう、花瓶から抜いて投げ捨てられたりしていたのですが、そのオレンジ色の実だけはたくさんあったのがひとつ残らずなくなっていて、そのあと荒らして回ったと思われる他所の墓所にあちこち、その作り物が入った吐瀉物が・・・。


そりゃ吐くよ。

正体は発泡スチロールなんだもん。



それにしてもかわいそうなことをしました。

もう二度と、美味しそうな作り物は入れないから許してね♪