退職した職場は、今日が仕事始めである。
県へ挨拶に行ったとき、なぜか退職したわたしに仕事の伝言を頼む担当者の意識もどうかと思うが、まあそれはメール一本打てば済むことだ。
忘れぬうちにと昨日のうちに U くん宛にメールを送り、了解との返事もほどなく届いた。
さて、今朝のことである。
前職場からケータイに電話が入った。
「 プロジェクタなんだけどね、パソコンに繋がるように出来てるのかな 」
局長である。
「 11月にご一緒した事業でも使用しましたが、両端が平らな端子のケーブルがパソコン用なので、それ一本あれば映像も声も繋がります 」
「 県の担当者とさっき電話で話してたらパワーポイントっていう言葉が出てきたんだけど 」
「 パワーポイントとプロジェクタに関しては、お渡ししたその事業に関する引継書の2ページ目に記載しています。うちのノートパソコンにはパワーポイントが入っていないので、必ず担当者がノートパソコンをお持込いただくようにと口頭でもお伝えしましたし、県にも昨年からお願いしているので通じてると思います。わたしはたまたまパワーポイントが使えるので休憩時間に微調整までしていましたが、それは担当者の方にしていただけば済むことです。それも前回の研修のとき、担当者の方にわたしからお話ししていますのでありもしないソフトの操作を要求される心配はありません 」
「 うん、そう言ってた。ただね、本当にうちでは用意しなくていいのかと思って 」
・・・・・用意したくてもソフトが入っていないと説明しておろうに。
「 プロジェクタねえ、ちゃんと繋げるかなあ 」
またそこに戻るのか?
「 繋ぎ方は事前にお見せしながら説明したとおりですから 」
「 うーん、でもねえ、大丈夫かなあ 」
「 引継ぎの時にやってみたとおり問題なく稼動してますが、どうしてもご心配でしたら、そこにスクリーンもありますので再度投影してみられたら如何でしょうか 」
「 うーん・・・できないかもしれないねえ。失敗するかもしれないよ 」
イライラするのは、わたしの人間ができていないからだろうか。
「 それほどご不安なら、失敗しないためにも事前に確認しておいた方がよろしいでしょうね。必要ないとは思いますが、使い方の簡単なマニュアルはプロジェクタのバッグに入ってますから目を通してみてください。それでも無理だと思ったら、某社 ( 出入りの事務機業者 ) に当日の扱いをお願いしてみるのも可能だと思います。お渡しした仮決算書をごらんになれば予算が十分にあることはお解りでしょうし 」
局長が期待している答えは判っている。
<わたしが行きましょう> もしくは < U くんにお願いしてみましょう> である。
自主事業を抱えている U くんに、自分が引継いだ筈の事業を自分から頼むのは上司のプライドが許さないのだろう。
だいたい引継ぎしているときも、端から誰かにさせるつもりでいたから、説明を聞いていないのだ。
しかし誰かにやらせるとはいっても、事業当日になって会長や県の担当者からなぜ U くんがやっているのかと詰問されたときに説明に困ることになる。
<タイタンさんが頼んで行ったんですよ> という言い訳がどうしても欲しい。
さらには、わたしが自主的に手伝っているという言い訳が立てばもっと好都合である。
責任の発生することを負いたがらない性質は、局長が赴任してからの9ヶ月で職場の誰もが見切っている。
重要な会議から逃げ、事業から逃げ、製作物も何度か途中で投げ出した。
そのたび部下全員が協力して期限内に仕上げてきたのだ。
そのくせ変なところだけワンマンに押し切り、責任が追求されそうになると皆で決めたことだと責任転嫁を決め込む。
だからこういうときに、所属が違うとはいえ兼務している部署の直属の部下なのにもかかわらず、誰も <手伝いましょう> とは言ってくれない。
要するに自業自得なのである。
この先、いったい何度くらいこの手の電話がかかってくるのだろうか。
考えるだけでも頭が痛い。
いっそ電話番号変えてみるかな・・・(--)