カルピス。
氷とグラスの奏でる <カランカラン> という涼しげな音色とともに憶い出す夏の味。


四人姉妹の我が家では、カルピスは薄味だった。
学生になって他所様で出されるそれや、商品として発売されたカルピスウォーターを知るにいたり、じつはそう薄味でもなかったことに気がつくのだが、小学校当時は被害妄想的にそう思い込んでいたのだ。


いつか思うさま、濃い味で飲んでやる。
飽くなきカルピスへの憧れが、そんな決意を生んだ。


チャンスは、小学校6年生の時におとずれた。
クラスの掃除当番割当の中に、家庭科室が登場したのである。
家庭科室の冷蔵庫は児童が開けることを禁じられていたが、どういうわけかわたしは知っていた。
中には給食で残ったプリン、誰が飲むというのかキリンビール、そしてカルピスの瓶が入っていることを。


夏の暑い日、わたしはやおら冷蔵庫を開けた。

「先生に怒られるよっ」

誰かが止めたが、お構いなしだ。
小学校の冷蔵庫にビールを常備しておく教師に、何の注意ができようか。
わたしは飲むっ!


そんなことを言うと、みんながみんな飲むと言い出した。

とはいえ、コップなど割れ物の類は児童の手の届く場所には置かれておらず、水で薄めて飲むことはかなわない。

みんな迷わず原液を口にした。





うええぇぇぇ~~~
口に糸が・・・繊維がまとわりつくよぅ~


水道から直接、水をがぶ飲みする。

小さい子どものおなかは、すっかりタプタプになってしまった。






憧れと、ド甘い後悔の味。

それが、カルピス。