神々は性格が悪く、その言葉は分かりづらい
C.ノーラン渾身の一作は全編IMAXフィルムカメラで撮影。並み居るビッグネームの中でも首一つ飛び出た立場の彼だからこそできる企画である。
しかし個人的にはあまりにも大きくなり過ぎて最近は少し理解が追い付かなくなってきたと思うところ、特に本作は一般の日本人になじみが深いとは言えない古代ギリシャの叙事詩の映画化である。西洋では常識に近い話なのであろう。公開されれば当然のように大ヒットとなっているが、果たしてわが国ではどうだろうか。
イタケの王・オデュッセイアは、長期に渡ったトロイア戦争の激戦を勝ち抜け故郷へ戻ろうとしていた。しかし、その途中で神々からの度重なる試練に遭遇し、戦争終結から何年経っても帰還することがかなわずにいた。その間、留守を守る妻・ペネロペの元には結婚を迫る者たちが殺到し、イタケの国は崩壊寸前の状況に陥っていた。
嫌な予感がしたので登場人物の名前や背景はさらっと予習しておいた。そのせいかどうかは分からないが話にはすんなり入っていけた。
というよりすごかった。「叙事詩」という単語がWikipediaでも使われているが、そんな小難しい言葉は必要ないスペクタクル冒険劇であった。トロイア戦争が描かれるので大軍同士の戦闘シーンは予想していた。しかし、一つ目の巨人・キュクロプスが登場するシーンでこの映画に対する印象は一変した。
なんだこれは。彼ら一行に立ちふさがる試練はすべてがほぼ絶望。加えて性質が悪いのは、それらには少なからず神が関わっていること。キュクロプスの父は海の神ポセイドンで自分を攻撃したオデュッセイアを呪うように仕向けるし、その後は魔女や鎧の巨人、死者の国、セイレーンの歌、巨大渦潮と船を襲う怪物などが出てきても一切助けを出さず、逆に飢えに負けて牛を殺したらそれが太陽神の神聖な牛ということで船員は皆殺しにされてしまう。
話は悲惨極まりないが、迫力はものすごい。都会ではないのでIMAXで観られなかったのは残念であるが、映画館で味わってこその映画であることは間違いない。
怪物が出てくる場面や荒れる海原といった派手なシーンに目を奪われるところが多いが、木馬の中に数日隠れたり、還ってくるか分からない王を待つといった、困難に耐え続ける場面も印象的で、神は辛抱強く正義を守り通した者のみに施しを与える神話の幹とも言える考えが投影されたものと感じた。少し日和っただけで命を奪われるのはあまりに厳し過ぎるが。
また、オデュッセイアが過去を振り返る場面では、勝利に終わったトロイアとの戦争や乗り越えてきた幾多の困難について、決して美談ではなく愚かな自分の行為が招いた可能性があることを示唆する作りになっており、勝利は必ずしも正義ではないという真理に苦悩する姿が物語に深みを与えていた。
無事帰還を果たしたオデュッセイアが王座に戻らず、自らへ追放処分を課したのも印象的であった。勝者と敗者の分断が連鎖するのを避けるために、息子のテレマコスに対しても求婚者の討伐に加わらないよう諭していた。この決断が一連の冒険を通じて彼がたどり着いた結論であり、まさに現代にも通じる事象となっているのである。
演者も豪華だった。R.パティンソンは今までのキャリアでいちばんのハマり役だったのではと思ったし、主役級以外でもE.ペイジ(エレンじゃない)、M.ゴスなどが短時間の出演ながら存在感を発揮していた。そうした人たちがそれぞれ印象深かったからこそ、これだけスケールが大きく複雑な話でもしっかり楽しめたことに繋がったのだと感じた。
とは言いながらまだまだ理解できていない部分があるはずなので、いろいろなところを回って知識の補完をしてこようと思う。
(90点)