明日の記憶 25 | 櫻の葉色

櫻の葉色

左利きマジョリティ

「…うわ… 綺麗にしてんのな……。」


部屋の中は整理されていて、モノが無い訳ではないのにスッキリとしていた。


不躾に上がってから、ウロウロと部屋の中を探索する。

そんな俺を全く咎める事なく、コイツは荷物を部屋に片付けると真っ直ぐにキッチンへと入っていった。

俺もコイツの後を追い、キッチンに入ると
コイツの背後に周り後からその手元を覗き込んだ。


「何、してんの?」

「え? あ、コーヒーでいいかな…って。。」


蛇口を捻り、水を出している手を止め手首を摑んだ。

「……しょおちゃん……?」


濡れた手の滴が摑んだ手首から伝い流れる。

床にポタポタと零しながら掴んだ手首をそのままにキッチンを出る。

狼狽えるコイツを引っ張りリビングの真ん中まで行くと、ソファに促し一緒に腰を下ろした。


置いたビニール袋から品物を一つ一つ取り出しテーブルの上に並べる。


「コーヒーならあるよ。 
お茶もジュースも、全部買ってきたから。」


「………すごいね……。 
…こんなにいっぱい…ほかにだれか来んの…?」

テーブルに並べられる品物に呆気にとられキョトンとした顔で俺に問い掛ける。


「…来ねぇよ…?」


飲み物の他にもおにぎり、サンドウィッチ、焼きそば、唐揚げ、ウインナー、枝豆、チーズケーキ、チョコレート……


テーブルの上いっぱいに隙間なく並べていった。

全て並べ終えると袋に入った割り箸を2膳取り出し、1膳を渡した。


「全部、お前と俺で食うの。」


「しょおちゃん、おれ、うれしいけどこんなに食えないよ? 
しょおちゃんがおなか空いてるんならおれ、なんか作っ…」

「そういうの!!」

「あ… え…っ?」

「そういうの止めろや…。そんな気ぃ使われたら、俺、来た意味ねぇじゃん…。」



想像通りだった。

コイツは、自分の顔を見せない。

辛くてキツい自分をメンバーの俺にさえ見せてくれないんだ…と思うと悲しくなった。


箸を置き、隣に座るコイツに身体を向ける。 

俺の事を不安げに見つめ身体を硬くし押し黙っている。

きっと怒らせたんじゃないかとまた、あらぬ心配を頭に巡らせているんだろう……。


…………俺が…悪いのか……?


コイツに安心を与えてやりたいのに。

守ってやりたいのに。


俺を拒絶し恐がるようにしてしまったのは俺のせいなのか…?


泣きそうになる自分を堪え、唇を噛んだ。


恐る恐る腕を伸ばし、瞳を逸らしたままのコイツの肩をそっと抱き寄せた。


「………あまり…頑張り過ぎんな………。」


耳元で囁く。

…ちゃんと届くように…。


「…お願いだから…無理…しないでくれ…。」


強張っていた背中が解れていく。

やがて…俺の背中にしがみつくように両腕が回され、俺の耳元には小さな嗚咽が響いた。