その日、3月28日。
 

 

弟からメールが。
 
 

『お父さんは、今夜が峠らしい。もう、無理だって。』
 
 

今までも散々、入退院を繰り返し、

病状が悪化し続けていた親父だったので、

心のどこかで、
 

『そうはいっても、結局また、持ち直すんだろ?』

そう思っていました。
 

それに、行ったってどうせどうしようもない。

もう、そんなに長くないのは誰だってわかっていた。
 

そして、夜の10時くらいに店が終わり、

 
 
 

ごく、短い迷いで、決めた。

突然決めた。

やっぱり、行ってみようと。
 

夜も遅かったし、

朝からでも出かけてみるかとも思っていたが、

何を思ったか、

この時、即断した。
 

そして姉にもメール。
 

『弟からメール来てるけど、今夜が峠だって。多分心配いらないとは思うけど、念のために行ってみる。』
 

もう夜も遅いし、姉夫婦も来ないだろう。。。

そう思っていた。
 
 

そして八木山峠を超えて病院へ。

車が近づくにつれ、

なんだか行くのが怖くなり、

峠の自販機前で休憩したり。
 

『まさか。。。』
  
 
 

でもこの間に亡くなったりしたらいけない。

いや、まさかそんなことはあるまいが。。。
 
 

病院に着いても、

駐車場の満開の夜桜をしばし眺める。
 

病室に、

向かいたくなかった。
 
 

でも、いくか。
 
 

僕は緊急入り口から入り、入院の階を教えてもらい、

登っていくと、
 

エレベーターが開いた正面の通路を
看護婦さんが三人、バタバタと走っていく。
 

こちらにきづき、

『どちらにいかれますか?』というので、
 

『田中正志は。。。』と訊くと、
 

『え?田中さん??』と驚き、
 

こちらです!と病室に。
 
 

バタバタはうちの親父のところだった。
 

母親は耳が遠いので、

看護婦さんの説明など全く聞こえてはいない。

が、やっかいなことに、上手にあいづちをうって、

『わかりました』なんていうもんだから、

みな、わかってるもんだと思ってしまう。
 

このときも、親父の様子が計器で悪くなっていったけど、

説明も、看護婦の呼び方も理解してなかったために、

母親は看護婦を呼ぶ事ができず、

親父の呼吸が完全に止まってしまい、

看護婦がアラートでバタバタと病室にきたのだ。
 
 

『もう、今夜中に亡くなります。誰か御呼びしますか?』

さきほどそう、母親に伝えたらしい。
 

ところが呼ばれる前にもう僕が到着。

五分後には姉夫婦もやってきた。
 

姉夫婦には大丈夫だと僕は伝えていたけど、

やはり虫の知らせだろう。
 

看護婦は母に、

『残念ですがもうご家族をお呼びになっても誰も間に合わないでしょう』

そう説明されたところだったようだが、

五分後には、家族全員集合。
 

看護婦も部屋に入って来て絶句。

『なんで、急に集まれたの???』
 

いや、肝心の、弟がいない。
さっきまでここにいたはずの弟がいない。
 
 

消えかかっていた父親の脈拍が強くなった。

今は僕がいて、姉がいて、

なかなか揃う事が無い、

家族がもうすぐ全員揃おうとしている。
 

この家族で、
 
 
 
 

大分からトラック一台で引っ越してきて、

今の山にやって来た。
 

家が建つ前はみんなでテント生活をして、

みんなで山を開き、

家を建てて、暮らした。
 
 

われら五人家族。

僕らは五人。この五人でひとつ。
 
 
 

今や死なんとする我が父親を前に、

僕は頭の中を一生懸命に整理していた。
 

家族とは何か?
 

この五人の家族の存在は、

どういう意味があったのか?
 

五人でなくなるとは、

どうなることなのか?
 

短い時間だったが頭の中はぐるぐるとまわる。

何か、答えを見つけなければ。

親父がいきているこの時間のうちに、

答えを、出さなければ。

そうおもった。
 
 

親父の身体を計る計器の線が、また、

緩い波となった。
 

その度にみんなで呼ぶ。
 
 

『お父さん、まだ、孝昌が来とらん。』
 
 

心拍数を計るラインが何度も一直線になるが、

そうやって話しかけると、首の動脈がビクンと波打ち、

また、心臓が動き始める。
 
 

『まだだよ、まだ、みんな揃ってないよ。』

僕は父親にずっと話しかけた。
 

そこに、後ろから弟が入って来た。

今夜が峠だというので、

自分が寝るために寝袋を取りに帰っていたのだ。
 
 

弟も、僕や姉がみんな部屋にいる事に驚いていた。

まさか、全員来てるとは思わなかったようだ。
 
 

『お父さん、そろったよ。孝昌が来た。

家族五人、みんなここにおるよ。』
 
 

僕が話しかけると、
 
 
 

もう、植物人間になっているはずの父親の、

呼吸や心拍数が急に荒くなり、

自分が生きている事を僕らに知らせているようだった。
 

そして、
 

下側にしていた左側の目から、

涙を一筋流した。
 

僕はとっさに右手の指でそれを拭った。
 
 

そこで親父の計器のすべての生命線は消えた。
 
 

そしてこの夜の事を経験して、

僕にはわかった。
 

この五人が存在した事は、

奇跡なのだと。
 

何度も『死人』になっては、また心臓を動かし、

目も見えていない、耳も聞こえてはいない、
思考は完全に停止しているはずの父親は、

家族五人が揃うまで、必死に生きてくれた。
 

人間は、奇跡。

僕も奇跡。

生きている事はすべてが奇跡だ。
 

地位にも、名誉にも、富みにも勝る。
 

生きているという奇跡を起こしているだけで、

僕という人間にも価値がある。

それが真理だと感じた。
 

春の訪れ。

美しい、満開の桜。

青い空。

凛とした、野生の山桜。
 

この季節、

親父の事を送った日の思い出と、

すべてが重なる。
 

僕にとっての春とは、

そういうものになったのだ。
 

今年も、もう、そんな季節。

福岡の公園のにぎやかな花見が終わった頃、

僕は、山桜の下、

親父と酒を酌みにゆく。
 

一緒に行きたい人は大歓迎であります。
 

いつか、僕との思い出は何かと訊かれた時、
 

きっと、
 

あの、山桜の下で酒を飲んだことだと、

答えるでしょう。
 

その出逢いも、また、奇跡のひとつ。
 
 

 

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Hideichi Tanaka

 

 
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