時として創造者は破壊者でもある。
一番有名なタンゴ名曲と言えば「リベルタンゴ」かも知れないけど、
間違っても蛇足副題「永遠のリベルタンゴ」ではない。
劇中演奏シーンは挟まれるが本筋とは無関係で、
タンゴ史における俯瞰的なピアソラを捉えたドキュメンタリーではない。
原題通り鮫釣りが好きな変人のオヤジの私史にすぎない。
登場するのが殆ど一度は喧嘩別れした息子と自伝を執筆した娘のみで、
あとは残された写真と動画アーカイブ頼りで故人の人生を追うという構成。
評論性は希薄で近親者からの人物像に焦点を絞る。
改めて時系列で音に触れると、にじみ出る変態性が際立つ。
雑食的に正統派タンゴから逸脱し、飽き性なのか常に過去を否定して、
次の境地へと開拓し始める。ブエノスアイレルから世界へと彷徨。
特にエレクトリックギターにアナログシンセが飛び交う電化八重奏の際物ぶりには感服。
破壊的でありながらも、同時にこれほどまでに美しい音はない。
偏愛度合★★