フランスの文豪モーパッサンによる不朽の名作で、
フランスでも、日本でも何度も映画化されてきた物語なのに、不思議と全く縁がなく今作が初体験。
前知識なしだったので、そもそも物語自体を知らない。
基本時系列でプロットを追い、細部描写を丁寧に積み重ねながらも、緩急をつけ、端折って飛ばし、
未来や過去の断片を唐突にインサートするという特異な語り口のため、ちょっと流れに乗りにくい。
全体の物語構造として、人の記憶のランダム再生に近いような編集リズムとなっている。
明るい光に満ちた至福の時の直後に青黒い過酷な未来の断片を繋ぐなど、
人が過去を振り返る時のように、時系列に縛られない、断片が散逸している。
ヒロインを演じるのはジュディット・シュムラは何となくジュリエット・ビノッシュを思わせる顔立ち。
17歳から40代後半までの人生を演じ切る。
決して幸福に満ちた生涯ではなく、男運の悪さが目立つ。
恋愛、結婚、出産、子育てという人生の裏に繰り返される夫の浮気とその結果の死、親を看取ること、
息子との別離など厳しい裏面が挟み込まれる。
映像もそれに準じた自然光とあふれんばかりの緑を活かした光の季節と、
薄暗い雲に覆われ、暗い青を基調とした闇の季節を交錯させる。
映像そのものが心象風景になっている。
それも過去の記憶の再生に近い。
良き思い出は明るく清々しく記され、悪しきことは暗い闇にどんより記憶される。
同性ではないので女としては感情移入はできないが、救いのない部分も多く、いたたまれなくなる。
でもそれもまた”Une Vie”という原題通り人生なのだ。
いろいろあってもそれでも、生き続けて、日々を過ごしていく。そんなことを年の瀬に痛感した。


偏愛度合★★★