ジェシカ・チャスティン一本買い。
アメリカで一番脂ののった旬の女優だろう。
目を惹くスター性や個性的というより役柄に自然にははまり込み、素が見えにくいカメレオン女優。
「ゼロ・ダーク・サーティ」でCIAアナリスト役で一躍名を知らしめ、諜報員、警官関係者、
「オデッセイ」「インターステラー」と役が重なる宇宙関係者など公僕系が多いかと思えば、
「ヘルプ」で差別主義の主婦を演じていたり、「クリムゾンピーク」の魔物やら
「女神の見えざる手」では「ELLE」のイザベル・ユペールを肩を並る感情移入不可能だけど、
ひたすらかっこいい女性など幅広すぎる役柄を選択している。
今回のアントニーナ役も、「女神の見えざる手」の直後の公開だけにそのギャップには驚くしかない。
常に沈着冷静で超キレ者で自己中心的だけど、突き抜けた生き様が共感を超えて、
目が離せない役柄から、一転してごく平凡のワルシャワ動物園の妻役。
セミショートの金髪(元々チャスティン赤毛のイメージが強い)に花柄の絵ワンピース姿で、
夫と動物たちをこよなく愛するか弱い女性だ。まずはこのギャップに驚く。
見た目だけではなく、声質まで変えている。ドスの効いた恫喝命令口調から、
呟くような甘い声に変えている。一気に続けてみると相当面白いぞ。
ユダヤ人を動物園地下に匿って救ったからといっても、ガチガチの反ナチ思想の抵抗者でもなく、
外面を気にかけた偽善者ではない。
単に母性と言えば語弊もありかもしれないが、目の前に苦しんでいる動物がいれば
助けを差し伸べる(冒頭で伏線として描かれる)との同じであり、
人種や宗教とは無関係に弾圧されている人がいれば、素直に助けたいと願う人物である。
彼女を愛する良き夫の手助けで、数名ずつ収容所からユダヤ人を助け、逃がしていく。
元来自分は、予告編にもあるシンドラー、杉原千畝などの聖人化された偉人の物語が大嫌いである。
どうにも映画としてつくられた美談が苦手で、落ち着きが悪いのだ。
そこはドラマチックに美化せずに、ユダヤ人は傷ついた動物と同じく、手を差し伸べ、
助けを必要をする記号化された存在と描く。ヨーロッパ全土を覆う政治的な暗雲には触れない。
天使としてのアントニーナを強調する。
半面人の本性は基本悪行であり、数多の血の上にこそ歴史が成り立ってゆく。
それを象徴するのがダニエル・ブリュール演じる動物学者である。
優秀なありながらも、ナチス親衛隊という後ろ盾を得て、
あたかも自分の行動が国家(ナチスと総統)のためとなり、歴史に名を刻む偉人なのだと錯覚していく。
増殖するエゴの象徴として、アントニーナと対比される。
人妻の彼女に好意を抱き、何かと便宜を図りながら近寄るとする。
戦局全体とは無関係な善悪のせめぎあいが展開される。
彼女がどんどん強くなり、男を利用しながらも、夫はその変化と自らの弱さゆえの揺らぐ。
結局、有事においては女のほうが圧倒的に強い。
最期には多くを失いないながらも、終戦を迎え、
動物園という彼女にとっての楽園(パラダイス)の再現を目指す。
偏愛度合★★★++