「生き残った者の掟」という映画があったが、まさしく60年代末から70年だにかけての激動の時代を
生き残ったロックニュージシャンには、一定の「掟」がある。
あの時代,、数多の才能のなるロックスターが27歳になると自動的にタイマーが作動するかの如く、
夭逝していった。殆どがドラッグ、アルコールなどのオーバードース。
そこには二つの選択がある。
若くして死に伝説と化した者と生き残る者だ。
本人が望むと望まないに係わらず悪魔の気まぐれで死に至ることもあれば、
自らの意志で生き抜く選択もあるだろう。
後者を選んだものには、共通して自ら課し続ける「掟」が存在する。
イギー・ポップは1947年生まれなので今年で、ちょうど70歳をむかえる。
本名はジェームズ・ニューエル・オスターバーグ・ジュニア。
映画でのクレジットではジェームズ・オスターバーグとある。
「淫力魔人」と称され、ステージ上で嘔吐したり、ナイフで己の体を切り刻んだり、
裸でガラス破片の上を転げ回って救急車で搬送されるといった奇行を繰り返し、
過激で暴力的な行動と定石の様にドラッグ中毒に陥ったロック・ミュージシャンとして悪名を馳せた。
でも近年バンド再結成などで披露したそのパフォーマンスには全くの衰えがない。
贅肉が一切なく、絞り込んだ体型とその機敏な動き、
舞台で繰り広げるパフォーマンス自体は往年と比べても全く遜色がない。別の意味で魔人だ。
ミック・ジャガーにも全く同質なものを感じる。
今作はそんなイギー・ポップへのジム・ジャームシュの
底知れない無限の愛と尊敬によって実現したドキュメンタリー映画だ。
伝説のロックスターとバンドのドキュメンタリーとおいうことで彼の作家性は薄い。
本人が健在なので、インタビュー中心となり、その他のメンバーや関係者の声に
残されたスティルとアーカイブ映像をミックスして、アニメーションなども導入しながらバンドの歴史を追う。
とりわけ目新しい手法ではない。
まず驚くのは、撮影時の正確な年齢は不明だけど、70歳近い老人のインタビューとは思えない。
過去への回想や質問に対する回答などその語り口には全く淀みがない。
凄まじく頭の回転が速く、的確に、そして知的に言葉を紡いでいく。
その姿はまるでロックスターというより引退した偏屈な老社会学者のようだ。
かつて淫力魔人とは思えない。そこでの彼の名はイギー・ポップというステージネームではなく、
ジェームズ・オスターバーグというひとりの男なのだ。
この二面性こそ生き残る為の課した掟なのだ。
日常でのワークアウトや体調調整など徹底した自己管理と
逆にステージという場では観客の求める姿を振ろうするプロフェショナリズムこそ全てなのだ。
この掟を課すことが出来た者だけが、生き残ることが出来るのだ。
ジム・ジャームシュならではの作家性によるドキュメンタリーではないが、
並ならぬイギーへの愛を感じそれは作品全体として観客も巻き込み、
当時を知る者も知らぬ者もあの時代を振り返る、年代記となっている。
今更ながら、最後に提示されるパンク、ニューウェーヴに与えた影響の大きさを痛感。

偏愛度合★★★