ほんとミシェル・ゴンドリー「グッバイ、サマー」と似ている。
どちらも学校に馴染めない少年が悪友と共に車でひと夏の旅に出かけ、成長していくという話。
「グッバイ、サマー」はゴンドリーの自伝的な要素を膨らませたファンタジーらしいが、
こちらはベストセラーの「14歳、ぼくらの疾走」を映画化したもの。
偶然の一致だろうけど、主人公である少年の容姿、小柄で髪の長い顔つきもやっぱり似ている。
主人公が様々な体験を通して内面的成長を描くというビルドゥングスロマンは、
いつの時代にもある類型的な物語の定石なんだろう。何せこちらは語源の本場ドイツだ。
このような普遍性の強い物語は、自分の記憶にあってもなくても、
何故か不思議と既視感を感じ、性別や年齢を越えて、体験や感情を共有することができる。
特にひと夏の旅ってのが、通過儀礼としてのエバーグリーンなエモーションをかきたてる。
もちろん自分のリアルライフでは14歳の男友達との旅なんて全く無縁だけど、不思議な懐かしさ。
普遍性のある物語では、型枠は定まっているので、細部をローカライズすればいいだけ。
少年の母はアル中、父は浮気中でクラスでは変人扱いで、
彼を旅へ誘う転校生がアジア系のロシア人という行動予測不能なはみだし者。
現在の家族像や移民問題やをちょっと社会背景として脇に置いておく。
旅の手段である無断借用してきたオンボロ車って「盗んだバイクで……♪」という歌詞と同じか。
使い古された真四角な箱みたいなこの車がいい味出している。
麦畑を疾走する時の爽快感たら!
目的も、行き先も定めない旅が何とも心地よい。
目の前には見たことが無い風景がひろがり、初めての人との出会いがあったり、
隠し味として危機一髪な冒険と異性への憧れもスパイスとしてふりかけるなど、
ある意味ズルいぐらいに類型的展開でフルコースでひと夏の青春を堪能できる。
目新しさはなくても、不思議とワクワクしながら旅のひと時を共有できる。
旅から帰ってきて、夏休みを終えて登校した時の主人公の顔つきが明らかに違う。
「おお、君も成長したな~♪」と思わず声をかけたくなる。

いつもながらの苦言はやっぱり邦題。
原題は「チック」というシンプルに男友達の名前なのに、
確かに劇中に50年後うんうんというくだりはあるにせよ、あくまでもサイドストーリーで、
50年後の自分像を売りにしたような、目的不明の文章調のやりたい放題にはうんざり。

偏愛度合★★★★