死にゆく地球を離れ、恒星間の人類の移民として宇宙船ってジャンル映画としての設定は目新しくなく、
つい昨今にも製作予算は桁違いだけど「パッセンジャー」というのがあった。
AIの声を相手に一人孤独に宇宙船艦内で過ごす姿には既視感いっぱい。
でも低予算のSFとかホラーにはまだまだ逸材が眠っている。
予算はなくても、アイディア次第でまだまだ楽しめる作品に仕上げることが出来る。
無数のクズ映画を掘り起こしていると、時々アタリに出会うというのがジャンル映画の醍醐味なのだ。
このスペインの若手監督も今後ひょっとひょっとしたら世界的にブレイクするかもしれない。

最初、それらしい宇宙船艦内のセットだけの密室劇で展開される。
乗船している宇宙船の全体像すら描かれない。
CG予算の都合かと思えば、勿論それがちゃんと伏線になっている。
中盤で給気系統の故障修理のために、並走する宇宙船からエンジニアの男が派遣されてくる。
艦内で生まれたヒロインは、外の世界を知らず、両親の残した映像で意外に他人に会ったことが無い。
初めて会うのがこの男だった。密室でのアダムとイブの邂逅だ。
初めての男とぎこちなくも接して、好感を抱く。
ネタバレになるが、ここから物語の語り口の視点が男側へと移り、隠された真相が明らかになる。
自分の生きていた世界が全て意図的につくられた偽物で
実際には別の現実世界が存在していたというお馴染みの展開へと転がっていく。
これも定石設定であり、とりわけ意外性は高くないが、前半と後半の組み合うせが面白い。
先程の伏線の意味合いもわかる。
やがて外の世界、現実世界へと踏み出すが、
当然ある実験目的で架空の閉ざされた世界をつくり、それを守ろうとする管理者達がいる。
男は管理者に対象監視のために雇われたエンジニアだが、真相を話し、二人逃亡を企てる。
全編言語はスペインであり、ロケーションと舞台設定はコロンビアというのが珍しい。
欧米とは異なる垢ぬけない街並みやが、逆に低予算ならではの現実とは異なる近未来を思わせる。
役者も二人(どちらも有名スターではない)を除けば、悪徳科学者、黒服の追手など
登場人物も最小限のみで、定番の設定の予想外の繋ぎと転調だけで、
しっかりと楽しませる娯楽性を持つ掘り出し物。

偏愛度合★★★