特殊なジャンル映画なのでどうしても観客を選ぶが、
ワンアイディアを閉鎖空間で演出とカメラで巧みに語る傑作。
これはその筋の人なら劇場で手を打って歓喜する、掘り出し物と言ってもいいだろう。
実はアンドレ・ウーヴレダル監督の前作「トロール・ハンター」も傑作。
トロールという北欧の伝説の生き物を追うフェイクドキュメンタリー形式の作品だ。
今後彼はアメコミや大作ジャンル映画の雇われ監督としてハリウッドに引き抜かれるかも知れない。
ジャンル的にはホラー映画に属するのだろうが、基本となるのは法医学という合理主義だ。
事件性や死因究明のために、警察の依頼で死体解剖を担う一家が主人公。
外部から内部に至るまで目に見える物理的な症例で判断する合理主義を貫く。
本来スーパーナチュラルなホラーとは相反するもの。
この合理主義が段々と呪々なマジックリアリズムへと転じていくの過程を描くのだ。
主人公は三世代に渡り死体の解剖と焼却を行う親子。
といっても病院や警察といった大施設ではなく、田舎町の個人宅の地下室を作業場としている。
まずはこの舞台設定が秀逸。
前半までに、この閉鎖空間の説明を積み重ねる。
地下の作業場へは階段ではなくエレベーターのみの移動であり、
外部と通じているのは非常口として設けられた庭先に突き出た観音開きの換気口だ。
地下は通路が入り組み、曲がり角にはカーブミラーがある。
後半に伏線として活かされる空間設定をごく自然に描く。逃げ場のない密室的な構造なのだ。
更には父と息子の二人のみという絞り込んだキャラクター設定が活かされている。
ジャンル的にありがちな恐怖で泣き叫ぶ女子や欲情したバカ男子などは登場しない。
あくまでも専門医として、合理的な状況判断をする。
舞台と主人公が揃った。
前半で張った伏線を回収しつつ、思わぬ方向へと転じていく。
「セブン」でケヴィン・スペイシーが演じたのはジョン・ドゥだけど、
こちらは殺人現場の地下で発見された身元不明の美しき死体ジェーン・ドゥ。
当然「ツインピークス」のローラ・パーマーが過るぞ。
解剖ルーチン通りに、外部損傷を確認しながら、その後切り開いて各部位の検証を行う。
この作品で何よりも注目すべき点は最後まで、この死体が動かない死体のままあり続けること。
誰が見ても怪しげで何かしでかしそうな状況(だってジャンル映画だ)なのに、
解剖結果は異常であっても、観客の期待を裏切り、単なる動かぬ物体としあり続ける。
下手な作品ならば、怪異の要因となる存在(大概は悪魔や悪霊)をあからさまに見せてしまう。
実は見せることよりも、見せないことの方が効果的で、より観客の不安感を煽る。
変化が訪れるのは、周囲の状況のみだ。
悪天候、電気系統の不調、ラジオのノイズ、物音、影などが積み重ねて、
息子の恋人が脇役として登場するが、基本は初老と青年という親子のむさ苦しい主人公たちだ。
やがて二人は逃げ場を失い密室と化した地下室に閉じ込められる。
合理判断で活路を見出そうとするが、様々な抵抗が遭遇して、
徐々にリアリズムがマッジクリアリズムへと転じていくのがこの映画の最大の見せ場となる。
演出とカメラワークだけで、観客を釘付けにする。
驚愕のというと仰々しいが、
お決まりに最後で提示されるオチによって頭尾が繋がる物語の構造といい万歳三唱したくなる傑作。
その筋の人は見逃してはならない。
偏愛度合★★★★