my spring #009
大学を出て、
急いで友梨奈の待つ裏の公園へ向かった。
ところがベンチに彼女の姿はない。
「理佐!」
声のする方を振り返ると、セーラー服姿の女子高生がブランコを漕いでいる。
友梨奈だった。
「理佐も」と手招きするので、隣に座り数年ぶりにブランコに挑戦する。彼女は立ち漕ぎ。私は久しぶりということもあり、足元が不安だったので、座ってこぐことにした。漕ぎはじめは膝の折り曲げるタイミングが掴めなかったけれど、徐々に慣れて来た。風を切るのが気持ちいい。
友梨奈のこぐ赤いブランコと、私のこぐ青いブランコが、同じリズムで交差する。
「ねえ。明日は、前もって来る時間教えてね。」
「うん。がんばる。」
「あと3日、大学で居残ることないと思うけど、もし授業早く終わったら図書館で宿題でもしてて。それか、一度家に帰ってもいいし。お家は近い?」
「お家というか、私、高校の寮に住んでる。」
「高校の寮!?え。じゃあ実家はどこなの?」
「愛知の田舎。」
「ちょっと遠いんだ。」
高校で上京するなんて、珍しい。
それに、学生寮なんて夢の世界だけだと思ってた。
ギムナジウム。
ヘッセや、萩尾望都が好きだった私は、そんな学生寮を想像した。
スモックのような寝巻きを着て、寮の薄暗い螺旋階段を、ろうそくの灯火だけで駆け上がる。
友梨奈は女の子だけど、あの世界観がよく似合う。
「学生寮ってなんか、青春だね。」
「でも、男子は別の棟だよ。」
「それでもって、隠れて密会するのが楽しいんじゃないの?女の子同志の禁断恋みたいなのもありそう。」
「どうだろう?あまり女の子いないから。」
「高校の寮ってやっぱルールとか厳しいの?」
「夜は9時が門限で、過ぎたら寮母さんを起こして開けてもらわなきゃいけないの。」
「それじゃあ、夜遊びできないね。」
「でも私は特別。塾が10時まである日があるから鍵持ってる。」
友梨奈は鞄からキーホルダーを取り出し、何本かの鍵を嬉しそうにみせてくれた。
「寮の鍵と、自分の部屋の鍵。風呂場の鍵なんかもあるよ。」
「ああ。だよね。」
学生寮だからと、勝手に手持ち部分がクローバー型になっているレトロな鍵を想像した。しかし実物は、よくある一般的な鍵と同じ。
「理佐〜。この風景もう見飽きた。」
「ん?」
「お家行こう。」
「ふふふ。待たせてごめんね。」
アパートには、F10。用紙サイズにするとA3程のキャンバスを用意した。この日から1枚の油絵にに専念する。さて、どんな絵を描こうか。
「友梨奈。行きたい場所ある?」
「何の話?」
「絵の中の友梨奈はどこに行きたいかなって。」
「どこでもいいの?」
「山でも、海でも、京都でも、イギリスでもいいよ」
「宇宙でも?」
「うーん、それは嫌かなあ。」
友梨奈は天井を見ながら、しばらく考えていたが、庭の柿の木を見て「あっ!」っと声をあげる。何か思いついたようだ。
「じゃあ、このアパートがいい!このソファーに座るセーラー服の私。」
「いいけど。そんなのでいいの?」
「私がここにいたってこと、残しておきたくて・・・。だから、この場所。それから、今の季節がわかるように、お庭に咲いてる春の花も描いて欲しい。」
なるほど。
私は、これから幾度となく彼女の言葉に感銘を受ける。友梨奈の美しさは端正な容姿と、それから言葉にできない何かがある。