ミホに優しい理事長が事務所にいていい
というので同行することはなかった。
バスは、ボーリング場に到着した。
まずは、皆んなチームに別れて、ボーリング
して親睦を深める。高校卒業まもなく入社
した2人は人気で、運送や工場の男性たち
が声をかけてくる。特殊な職場で女性が
いないこともあって、来月40歳になる
ミホや少しお姉さんの玲子さんも
溢れた男性の話相手をする。ざっと15人
ぐらいだろうか?大きな本社工場のわり
には人数少なめで営業している。
極力、機械に頼って経営している。
30億ものお金を国から借りても、肝心の
匂いを消すことは出来なかった。
現場の人たちも地方出身が多い。
皆んな真面目で頑張り屋だった。
給料は普通の工場よりは
いいが、桁違いと言えるほどはもらえない。
そんな状況で真面目に続けられることは
並大抵のことじゃない。
おそらく9割近い人間は、嗅いだこと
のない匂いに敏感で避けようとして
辞める決断をする。
ここでは、かなりの数の人間が入っては
辞めを繰り返す職場だ。
ボーナスをもらってから、ごっそり
まとまった人数が辞めるケースも
ザラにある。
極稀に続けて働く人間は、訳あり以外
ありえないと感じる。
採用の際に交わした誓約書を思い出す。
嘘偽りが発覚した場合、速やかに退職
となるところなどだ。明らかに人に
知られてはいけないような秘密があった
り何かに関わって会社に損害を与える
人間が入ってくることを予測している。
防御が厚いほど、以前あったトラブル
を考えての事だろうと思ってしまう。
事件になってマスコミが来る様な
ことは避けてひっそりと営業をして
行きたいのだろう。
国から無利子で借りてるお金もあるし、
何か事件に巻き込まれてしまうと
あっさり倒産しそうだ。
ネット時代だけに、検索すれば知られ
たくない事も出てくる。
玲子さんが、言っていた事を思い出す。
悪臭について住民からの直接の苦情電話
や乗り込んで来る事は1度もなかった。
役所を通じての苦情があるくらい。
周辺住民は関わりたくないのだろう。
これだけの悪臭がするから、
まともな人間は勤めて居ない。
怒らせてトラブルになって、どちらか
死ぬような事になっても原材料に
混ぜて仕舞えば、誰も気づかない。
完全犯罪が成立する職場なのだ。
理事長は、父親の職場を嫌って居たが
跡を継いだ。
ずっとひっそり生きてきてる。
ここの男性は、未婚のまま40歳を過ぎたり
離婚した人も多い。毎日居ると臭いが
染み付いて脂で蓋をされ、体臭になる。
本当に気の毒だ。
ミホもやっぱりいずれは辞める人間だ。
3か月で限界だろう。
長く働いて履歴書に色がつくのを嫌う。
しばらくの極わずかな休憩タイム。
職場の人はいいが、臭いは苦手。
まったく匂いに関わる事なく務める
ことが難しい。
玲子さんがミホに近づいて来る。
玲子「秘書になってどんな感じ。」
怖いもの見たさなのか根ほり葉堀り
聞いてきた。
ミホ「特にトラブルもなく、優しいしいいよ
1人じゃさみしいし、玲子さんにも来て
欲しいです。」正直に答えた。
ふーんという感じの反応だった。
時々、玲子さんの考えていることが
分からない。綺麗で賢くて、計算高い
ところもある。やはり切れ長の美しい
目元だろうか。冷たい印象もあったり
人を寄せつけない。ミホより玲子さんの
方が秘書に向いている。しっかりしてて
安心できる。そういえば理事長に
玲子さんのことを聞いたことがある。
とてもしっかりしてるけど、ホッと
気が抜けない緊張感があるようなこと
を言っていた。男性と話してても、盛り
上がりにかける。閉ざした秘密主義なの
か自分のことをあまり話してくれない。
ミホは彼女の私生活をよく知らない。
シングルマザーで息子2人がいること
ぐらいだ。