文章力対決、ということでお互いに創作したものを競い合っています。
勝つか負けるか云々よりも、これを読んでいただいた方に楽しんでいただければと思います。
今回のテーマはクリスマスです。
では、お話が始まります。お楽しみ下さい。
相手の方の作品はこちら。
※話中にリンクがあります。過去に創ったものです。そちらもお楽しみください。
クリスマス―。
キリスト教の一番エライ人が生まれた日ということで、その前日から当日にかけて、
世界的にお祝いをする日だ。
ま、そんなことはあたしにとってはどーでもいい話。
プレゼントがもらえる日という点で言えば、誕生日と同じで特別な日ではある。
クラスの友達もほぼ同じことを考えている。それにしても、誰かの誕生日だから休日とかお祝いとかやるんだったら、その日の学校、休日にしてくれないかしら。まぁそんなことしたら、およそクラスの人数分、休日が増えるからありえないんだろうけど。
あたしの名は田橋瑞希。そんなクリスマスを心待ちにする小学生の一人だ。が、サンタクロースの正体を知ってしまった、傷ついた女子の一人でもある。気づいている子と気づいていない子。そんなビミョーな年頃だ。まぁ気づかない子の大半は男子なんだけど。夢見る彼らの希望を潰すのは忍びない。そっとしてやろう、という風に思うこの頃だ。
冬休みに入って少々退屈気味だったあたし。・・・が、イブの24日から25日にかけて、楽しみなことがある。
こないだのハロウィンで知り合った、従妹のユミちゃんがウチに来てくれるというのだ。叔母さんと叔父さんも一緒なのだ。ユミちゃんに会えることと、どんな両親なんだろうとわくわくしたものがあった。
「娘が、お世話になっております」
「瑞希ちゃん、はじめまして。ユミがお世話になっております」
・・・・・。ウチの両親とは段違いだ。スーツ姿と着物姿でウチにきた二人が、叔父さん・叔母さんらしい。
「相変わらずかしこまってるわね」
「・・・フッ。あなたもこれくらい着こなしたほうがよろしくってよ?ご教授差し上げますわよ?」
「あんた、普段からそんな言い方なワケ?」
「ご想像にお任せするわ」
聞けば、着付け教室の講師さんをやっているという叔母さん。叔父さんも仕事をしているという、共働き、というものらしい。
「ユミちゃん、着物来てみない?可愛い着物も用意してあるわよ」
「・・・ちょっと、ウチに来て営業しないでくれる?」
「子供割引はあるけど、あなたへの割引は無いわね」
ふ・・・ふふふ・・・。
ママと叔母さんのやり取りに異様な雰囲気を感じる。パパはポンとあたしの肩を叩いて教えてくれた。
「安心しろ。姉妹なりの愛情表現って奴だ。ジッサイ仲良いんだから」
「そ・・・そぉなの」
「ところでどうなんだ?お前の妹は」
あっ、と気づく。良かった、ユミちゃんの服は普通だった。あたしの事を覚えているだろうか。
ユミちゃんはあたしが見ていることに気づくと寄ってきてくれて、顔をなでなでしてくれる。覚えてくれているらしい。やっぱりかわいぃーのぅ♪
「瑞希ぃ。これからユミちゃんと遊ぶんでしょ?だったらついでに、ツリーの飾りつけ、やっといてくんない?」
玄関先の外に備え付けられているクリスマスツリー。小さいものだが叔母さんが用意してくれた本物の木だ。
あたしの身長より小さいけれど、きちんと三角の形に整った綺麗な木だ。
普段なら寒いからヤダ、というところだがユミちゃんと二人で行くなら話は別だ。二人で厚着と手袋をして外に出る。飾り細工の詰まった箱は埃を被っていたが、ポンポンと振り落とす。飾り細工は色とりどりの丸い玉や鈴でいっぱいだった。あたしの真似をしてユミちゃんも飾りつけを始める。やっぱり楽しい。
「おーい」
パパが呼ぶ。
「寒いだろ。これ持ってきたから」
カップ2杯のココアと、アメを持ってきてくれた。
「それと、やっぱりこれだろ」
そうそう。クリスマスツリーと言えば電飾。電球を並べただけなのに、なんで飾ると綺麗に見えるんだろう。ぐるぐる巻きになって気に入っていたユミちゃんときゃっきゃと笑いながら、ツリーに巻いていく。
「じゃ、電源入れてやるから」
パパが奥に引っ込むと、ツリーが光を帯びる。やっぱ綺麗よねー。リズムよく点いたり消えたりする光はツリーに命を吹き込む。こういうのを見てると惹かれてしまう。
「じゃ、仕上げしよう!」
あたしはユミちゃんを肩車する。ちょっと重いけど大丈夫。ツリーのてっぺんに、星飾りをつける。パチパチと手を叩くユミちゃん。
「ちょっと瑞希ー。料理運ぶの手伝ってー」
ママが呼んでる。ユミちゃんはツリーを眺めて喜んでいる。慌てて帰ることも無いだろう、ユミちゃんをそのままにして、あたしはママのほうへ戻っていった。
料理を運んでいると、窓ガラスがガタガタと揺れだした。少し心配になって、あたしはユミちゃんを連れ戻しに玄関へ出る。相変わらずクリスマスツリーを眺めていた。風が強くなってこぼれてしまったせいか、ユミちゃんの服がココアで汚れてしまっていた。
「あっちゃー。汚れちゃったね。じゃ戻ろうか」
飴を口に入れていたせいで声が出せないユミちゃんは、コクリとうなづいて、一緒に部屋に戻る。
毎年のことながら、クリスマスイブの料理は豪勢だ。キリスト教のエライ人は質素そうな人なのに、どうして料理は豪勢なのかしら。実はあの痩せた身体して、大食いだったりするのかしら。
まぁそんな話はどうでもいい。ママと叔母さんが作った料理に舌鼓を打ちながら、ひとときを楽しむ。
しかしあたしの心にはわくわくした気持ちが、早く夜が来ないかと待ちわびていた。そう、プレゼントを心待ちに・・・。
そうして聖夜が終わる。玄関の外で光り輝くクリスマスツリーと共に―。
翌日。枕元でガサガサと調べたが、プレゼントが見当たらない。おかしい。ああ、そうか。昨晩、叔母さんがツリーの傍にプレゼントがあるのが本場なんだと話をしたら、パパがなるほどーって話をしてたんだっけ。ってことは、ツリーのところか。
ユミちゃんは既に起きていた。自分とユミちゃんの着替えを済ませ、いそいそと玄関を出る。
やった!やっぱりプレゼントがある!綺麗な包装に包まれたそれを見てあたしは歓喜した。
だが、歓喜したのはそこまでだった。
クリスマスの象徴であるクリスマスツリーが、揺れているのだ。葉や枝を揺らしながら、ガサガサと。
ガサ、ガサ、ガサ・・・。
何かがおかしい。葉っぱや枝の表面が、ツルツル光って不気味に蠢いていた。何かが表面にへばりついて、クリスマスツリーを揺らしているのだ。
あたしがさらに傍に近づいて正体を知ったとき、あたしはあらんかぎりの悲鳴を上げた。
異変に気づいた叔母さんが玄関に飛び出してくる。あたしが見た「それ」を、叔母さんも見る。
「・・・あぅ」
叔母さんも卒倒してしまった。
あたしは慌てて家の中にいるパパとママを呼びに行く。
「あー!またゲームオーバー!」
「マジでやべぇよゾンビィ!全然怯まないじゃん!」
「フリスク足りないわよフリスクぅ!スプレーよこしなさいよ!」
「やっぱ最凶難易度きついなー。マジで希望が見えないわー」
「おまえら・・・」
ハロウィンのときと同じシーンが繰り返される。ゾンビゲーを一晩中遊んで聖夜を塗りつぶした、馬鹿両親を引っ張って玄関先に出る。
「うぉっ!?なんだこれ!」
「あ・・・あたしパス。こーゆーのはパパに任せたわ。朝食の準備あるし~」
叔母さんを助け起こしてさっさと退散するママ。パパがツリーに近づいて調べると・・・。
「虫かよ・・・。瑞希、何か飾り付けのときにやったか?」
「し、知らない!フツーにユミちゃんと飾り付けやったわよ!」
何かが匂う。ツリーからだ。クンクンとパパが匂いを嗅いで、異変の原因を知る。
「・・・ココアだ」
よく見るとツリーの葉っぱや枝にも、飴玉が引っかかっている。もう何が起こったのかは明白だった。
あたしが料理の手伝いでユミちゃんと一旦離れたとき、ユミちゃんは飾り付けをしたのだ。飴玉で。
さらにココアをこぼし、木の表面にココアがかかってしまった。
幸いにも電飾や飾りには何も被害は無さそうだ、とパパは言う。肝心のユミちゃんはきゃっきゃと未だ電飾で光り輝く、蠢くクリスマスツリーを眺めて喜んでいる。何も分からぬ無垢というのは、何とも罪な気がしないでもない。
事情を聞いたママは語る。
「あの子は天性の才能を持っているわね。あたしの才能ねきっと」
その一言で、叔母さんと一悶着あったことは言うまでもない。
数ヵ月後、叔母さんから葉書が届く。庭で撮られた家族全員の集合写真。その脇で、植えられた例のモミの木。写真を見る限り、モミの木は未だ元気である。