「や、焼けたにゃーーー!![]()
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」
ユクモ農場のよろず焼き器を使って僕はお餅を焼いていた。ブッスリと串に刺さったこんがり餅。これを焼けるオトモはなかなかいない。・・・たぶん。
あのご主人の賜物なのかと思うとちょっと哀しくもなるが。
やぁっ。僕の名前はペパローニ。ドケチで暴君なハンターのご主人を持つ、オトモアイルーなのにゃ。
ホカホカのこんがり餅を目前にして、僕は揚々と食事の準備をする。僕は甘タレ派だ。タレ瓶の栓を抜き、豪快にかける。いやぁ、料理っていいもんだね!
ジュージューとした音が堪らない。もう僕の胃袋は餅を求めている。食欲を満たすべく、僕は串を―。
「ナニやってんだお前?」
背後から聞きなれた声。僕は串を消火したよろず焼き器に戻す。くそう、コイツにだけは見つかりたくなかったから早朝からこうして農場に来たというのに。
「やぁご主人。あけましておめでとうニャ」
僕はご主人に背を向けたまま挨拶する。
「ほぉ。俺のために餅を焼いていたのか。俺の為にな。ご苦労ご苦労」
「そうにゃ。餅はご主人のためニャ」
僕はよろず焼き器の底に溜まった灰を掻き出す。背後から足音が迫ってくるのを聞きながら。
「いやマジで、新年おめでとうニャ。ところでご主人、餅のことだけど、あるゲームを用意したニャ」
「ほぉ。ゲーム?将棋とかムズカシーのはカンベンしてくれよ。時間かかるし」
「いや簡単ニャ」
標的が完全に間合いに入ったのを見計って、僕は振り向く。
「餅を食いたければ僕の屍を―」
げしっ。
「よし、乗り越えたから食べていいよな」
僕の頭にはくっきりとご主人の足跡がスタンプされた。僕の手からはポロリと灰で包まれた素材玉がポロリとこぼれた。
こんがり肉と同様な食べ方でかぶりつくご主人。・・・こんなんだからモテないんだなきっと。
「「あ、兄ちゃーん」」
と、可愛らしい声が響く。僕の愛しい愛しい弟妹たちだ。そこにご主人の弟さんのハンターも居た。マジメで優しいキリッとした弟さん。なぜ神はこのような兄弟を世に送ったのか。弟さんはともかく、兄のほうは返品して欲しいくらいだ。
「はい。お年玉」
弟さんが僕にお年玉をくれた。封筒に入ったのは10000。なんとも羽振りがいい。僕はこんなハンターの下でオトモをやりたかった。
僕の弟妹たちが僕のご主人を見つめる。幼いアイルーの眼差し攻撃をはねのけるのか、暴君よ。
「あ、ああ。お年玉だな。はいこれ。手を出して」
弟妹たちが両手を差し出す。ご主人は懐からお年玉袋を取り出した。なんだ、気前がいいにゃ。わぁっ、と弟妹たちが目を輝かせる。優しいところあるんだニャ。
差し出されたお年玉袋を受け取り、弟妹たちが中身を見る。
「・・・」
その場に居た全員が凍りついた。笑顔を向けている僕のご主人以外。
「これがホントの落とし玉。よく使えよー」
そう、奴はマジで玉をよこしやがった。素材玉。
「「・・・うんっ。」」と笑顔を返す弟妹たち。よく出来た弟妹たちだ。
さっと背中を向ける弟妹たち。そして座り込んでひそひそと話をし始める。
「ちっ。なんだよアレ。今時あんなことやる奴初めて見たぜ」
「ギャグにしてはサム過ぎるわ。マジで風邪引きそうになるわ」
「バカじゃねーの?いい歳こいた大人がやることじゃねーよな」
僕の弟、妹たち・・・。僕の知らない間に、よく出来た、そして逞しくなったニャ・・・。
ご主人に聞こえるくらいの声量で会話を終えた弟妹たちは、振り向いてご主人のほうへ笑顔を向ける。その笑顔の意味するところくらい、誰でもわかるだろう。
「あ、ああ。実はあるんだよ、ちゃんとお年玉が!」
「おおっ!」
もう引き返せない。こうして僕達の懐は新春早々にホカホカにあったまりましたとさ。
でかしたぞ、僕の弟妹たち。