クリスマス―。
赤い服を着たおじさんが煙突からもぐりこんで不法侵入し、子供たちにプレゼントを贈るという、世に知られた年に一度のイベント。
子供たちにとってはおもちゃがもらえるという、お楽しみな一日でもある。
・・・ま、そんなことはどうでもいいのよ。サンタの正体なんてもう知ってるし。
2014年10月24日、昼2時―。クリスマスイブ。あたし、田橋瑞希は自宅でクリスマスパーティの準備をしていた。
サンタの正体がパパであることを知ったのは去年の冬。さすがにショックだったけど、もう大丈夫。いたいけな小学生に傷つけられた心の傷は、この一年の中で埋められた。
同じクラスのジュン君。小学生のあたしの初恋の人。いや、わかってる。初恋なんて上手くいくことなんて無いことくらいわかってる。でも、この気持ちでサンタの正体を知った心の傷は埋められた。
だって今日、ジュン君があたしのウチに来てくれるんだもの!!
もともと女の子友達だけで終わらせるつもりだったんだけど、成り行きでジュン君も参加することになったの。タナボタというか、運がいいと言うか・・・。サンタの正体がバレた不幸は、この幸せによって埋めることが出来たと思う。
・・・というわけで。あたしはあと一時間後に迫ったクリスマスパーティのツリーの飾りつけに夢中になっていた。そして、キッチンでいそいそと準備をしているのがあたしのママ。あたしのママは、娘のパーティに男の子の友達が来ると聞いて、なぜか張り切っている。こないだのハロウィン の一件があったにも関わらず、ママは赤い洋服を着てサンタに扮している。こういうことに情熱を傾ける性格なのだ。ほかの家のママはこういうことをしないと聞いて、つくづくウチって個性的なんだなと思う。
でもね、聞いてほしい。この日、あたしのクリスマスは、家庭崩壊の直前にまでなりかけたの。・・・そして、最後はハッピー?なエンドで締めくくれたんだけど・・・。まぁとりあえず聞いてほしい。
ケーキのデコレートはママが担当。色々買ってきたお菓子の皿の盛り付けと、ツリーの飾り付けはあたしが担当。ようやく頂上の星をくっつけて、遠目でツリーのバランスを見て納得のデキになった。
「そうかぁ、瑞希もそんな歳になったのかぁ。・・・で、男の子ってどんな子なのよ?」
こういう話をされるとあたしはどう返していいかまるでわからない。困った。こういう話になってあたしに好きな子がいるというのはママも知ったんだけど、こういう風に盛り上がるネタにされると、どう反応していいかわからなくなる。
「まぁ、来てみたらわかるんだし・・・」
「うん、それもそうね。でもパパには教えないほうがいいわよ」
「どうして?」
「だって・・・」
ママは困惑したような表情を見せる。あたしもなんとなく納得しているところはあった。なぜなら、パパはいわゆる「子離れ」出来ていないということ。子煩悩と言えばいいのだろうか。世間には無関心な父親もいるらしいが、逆に関心を持ちすぎるというのも考えものなのだ。確かに、娘に好きな人が出来たと知ったら、どういう反応をするだろうか。・・・考えないことにしておこう。
3時。パーティが始まった。「瑞希ちゃーん」とあたしの友達2人がやってくる。
女友達二人が入ったあと、その後ろでジュン君も入ってくる。
「・・・おじゃまします」
女の子の家に来るのが初めてだと聞いていたジュン君は、照れくさそうな様子で入ってくる。うろたえるのも無理はない。・・・というあたしも、男の子が入ってくるなんて小さい頃、いとこの赤ちゃんの男の子が来たくらいでほぼ初めてだと言ってもいい。
女友達の一人があたしに耳打ちする。
「ねぇねぇ、どういう作戦でいくの?」
「作戦って・・・」
「あれー?ミズキってば何にも考えてないの?」
「仲良くなれればいいのよ、仲良くなれれば」
「うーん、そうなの?せっかくあたしたちが近づけれるように考えてきたのにぃ」
他人のことになるとあたしもこの子みたいに盛り上がれるのだが、自分のこととなるとどうも慎重になってしまう。いざ自分の立場になると慎重になってしまうものだ。
パーティは順調だった。あたしたちはあらかじめプレゼントを持ち込んで、プレゼント交換をすることになっていたので、くじ引きでお互いのプレゼントを交換することになったのだが・・・。
ママがあたしに目配せする。そして、あたしの女友達二人もウインクしている。
(・・・やりやがったな)
この3人の思惑通り、ジュン君のプレゼントはあたしに、あたしのプレゼントはジュン君に行き渡ることになった。
・・・お互いお菓子の詰め合わせ。
「なんでラブレターとかじゃないのよ!」
友達があたしに小声で抗議する。
「・・・余計なお世話よ」
しょうがないのだ。こういうことで書くのはなんだか照れくさいし、正直恥ずかしい。
ジュン君のほうもどうしていいかわからなかったのだろう。お互いにどうしたものがいいのかわからなくて、こういう結果になった。
当のジュン君はというと、おしゃべりに交じってくれるし、ママとの会話もきちんと受け答えしている。礼儀正しいし、クラスのほかの男どもよりよほど良い子だ。
「ただいまー」
予期せぬ人物が帰ってきた。あたしのパパだ。ちょっと出かけてくると言って昼過ぎから出かけていたのだが・・・。
「おじゃましてまーす」
女友達とジュン君が玄関に向かって挨拶する。
「いやさぁ、商店街の福引で当たったんだよ、最新のタブレットPC・・・。・・・!?」
靴を脱ぐ音を立ててパパは嬉しそうにリビングに向かって話していたのだが・・・、
「男・・・?」
パパは聞いていた。パーティは瑞希の友達でやると。女の子だけだと思っていたのだろう。
「な、なぜここに男がいるっ?!」
パパは急ぎ靴を脱いでドドドっと広間に入ろうとする。そこであたしたちが目にしたものは―。
だだだっ!
ママが広間から玄関に向かって駆ける。パパに直対し、拳を構える。
「ここを通りたければ、あたしを倒すことね」
「なん・・・だと・・・!?」
「瑞希はあたしが守るわよ」
「・・・瑞希は俺の娘でもあるんだぞ」
「何人たりとも、ここを通ることはまかりならぬわよ」
「ぬ・・・ぬぬぅ!瑞希に現れた虫は、払いのけるのみっ!」
広間からそんなやり取りを聞いたジュン君が、少しクスリと笑う。
「なんだか面白そーだから見てみようぜ」
「えっ!?ちょ、ジュン君!?」
ジュン君が玄関に向かう。
・・・まずい、ここでジュン君に両親の喧嘩など見られたらたまったものではない。
そう思っていたのだが・・・ジュン君を追いかけたあたしたちが見た光景は、予想をはるかに超えたものだった。
ばりんっ。
乾いた音が家に鳴り響く。
「は・・・はわわわわ」
腰を抜かしたパパと、構えの姿勢を取ったまま動かぬママ。
パパの足元には、薄い段ボールの箱が無造作に置かれていた。真ん中に穴が空けられた状態で。
「まだ腕は衰えてないわね」
ママはまだ構えを解かないままパパを見下ろす。足元に破壊された段ボール箱を見つめて、パパは愛おしそうにその残骸を撫でていた。
「な・・・なんてことをぉぉぉぉ!まだ開封もしていないのにぃぃぃぃ!・・・!?」
パパの大声の怒号がここから続く・・・はずだった。パパの呼吸が止まった。
ママはパパに何もしていない。触れてすらいない。パパはママの顔を見て固まったののだ。凍りついたと言ったほうがいいかもしれない。
ママの背中しか見えていないあたしたちには、見えていないママの顔。
それをみたパパは、肉食獣に射すくめられた小動物のように凍りついていた。ママはむんずとパパの首根っこを掴むと、段ボールの残骸を手にとって玄関に引きずり出す。パパは凍りついたまま抵抗すらせず、固まったままだった。
「何を見たのかしら・・・」
あたしはぼそりとつぶやいた。聞いたことがある。あたしのママは、空手をやっていて国体まで出たことがあるんだとか。いや、それよりも気になったのは・・・。パパが見たママの顔。一体どんな顔だったのか・・・。
「・・・ねぇ瑞希ちゃん」
ジュン君があたしに話しかけてくる。怖い思いをしたのだろうか。ああ、あたしの恋はあの馬鹿な両親のせいで終わったのかしら。もう口聞いてやんないっ!
「瑞希ちゃんのお母さんって、すごいんだね!あれなんなの?」
食いつくように話しかけてくる。目を輝かせながら。あたしは知ってる限りのことを話す。
「へぇ、すごいんだなぁ。ねぇ瑞希ちゃん、空手教えてくれるように、頼んでくれないかな?」
「・・・え?」
終わったと思った恋なのに、意外な方向へ進んだ。・・・怪我の功名だろうか。しばらくしてから、学校の帰りもジュン君と一緒に帰ることになった。
<終わり>