今晩22時に、とあるブロガーさんと文章力対決します。今回のお題は『コメディ』。
で、ここでは元々書く予定だったお話をざらっと描いてみます。設定とかの都合でボツにしましたが。
高校卒業して運よく就職した新人ホヤホヤのOL、加奈子。社会人になってからはやめようと思っていたアニメは未だやめられない。男性から休日の過ごし方は?って言われると『家でヒッキーになってアニメ観てます』とは言えず、『買い物行ったり友達とカラオケ行ったりしてます』と答える隠れヲタクだった。友達なんていないのに。
それはさておき、一昨日から加奈子には妙な現象が起きている。加奈子が住む社宅マンションのドアの前に、赤い薔薇が置かれているのだ。赤い薔薇の意味するところは世情に疎い加奈子でも知っている。でもそんな男性はいないし、加奈子自身の目に叶う男性は職場には居ない。オッサン爺さんばっかりだから。合コンで知り合った男性なんかもいないし、つまり加奈子には薔薇を受け取るような事情は一切存在しないのだ。
で、それが一昨日から昨日と置かれ、もしかしたら今日も?と思い、急ぎ帰っているところだ。犯人を暴こうと意気満々だった。
ちなみに昨日までの薔薇は部屋に飾っておいた。だって勿体ないもん。
そーっと壁から覗く。バラは…あった。昨日までと違うのは、薔薇を持った人が居たことだ。
あ、あの人は…。加奈子が胸をときめかす。あの人は、別のフロアに住んでる、イケメン新人弁護士の二条さんじゃん!人気アイドルグループ『HARVIHIT』のメンバーにそっくりな…。加奈子は目を離し、壁越しに隠れてオロオロする。
な、なんでなんで?二条さんがあたしを?こ、これって玉の輿って奴??え、ええ!?で、でもでも、あたしまだ10代よ?高校出たてティーンズよ?
こ、これはどういうことよ??
『加奈子さん、俺の気持ち、受け取ってくれますか?』二条が話し掛けて来る。『あ、いやいや。そ、それはその…』
や、やばいやばい。受け取るの?受け取らないの?二条さんが薄く笑ってあたしを見つめてくる。ダ、ダメ!ダメダメ!…あー、いや駄目じゃないけど…ああ、もうどうすりゃいいの?
壁に隠れて妄想に浸っている加奈子を余所に、二条は立ち去っていた。二条はたまたまエレベータの降りる階を間違えて加奈子のいる階に降りていたのだが、扉の前に不審な薔薇が置いてあったので手に取っただけだった。何の変哲もない一輪の薔薇。調べてみたが何もない。まぁいいかと思い、階段で自分の部屋の階へ戻っていた。
『に、二条さんがあたしのことを…?』
ドクンドクンと胸を鳴らして、あたしは部屋に入り、妄想に浸っていた。
翌日。メンドクセー仕事はほったらかしで定時で急ぎ帰宅する加奈子。今度は早く帰ろう。二条さんが薔薇を置いた瞬間に出迎えるのよ、ちゃんとメイクして服着て、誘うのよ、そうよ加奈子、これは一生に一度のチャンス!!10代にして玉の輿ってどんなチャンスだよそれええええええ!!
ダッシュで帰る加奈子。
そして壁越しに自分の部屋のドアを見ると…誰かいる!!
二条ではなかった。加奈子と同じくらいの背丈の、女の子だった。加奈子自身も小柄なほうだったが、女の子のほうは中学生か高校生か、成長期らしさを伺わせる。明らかに加奈子より年下だった。
妙だと思ったのは、歳の割に胸が出てない。確かに美人なのだが、つるぺたなのだ。女の子は薔薇を置いて立ち去る。
女の子は加奈子の隣の部屋へ入って行った。
!?
隣って…確か男の子だったわよね…。部屋に戻り入居者の一覧を見ると、『西川誠太郎』と書いてある。
妹とか、あるいは彼女か?と思ったが、バラを手にもって置いて、立ち去るまでの動作は女の子のそれではない。薔薇を置くときのしゃがみ方は、男の動作だった。
男なのに、女の格好…?
そういえば思い出した。芸能事務所で練習生なんだっけあの子。
舞台とかドラマの配役の都合で、たまたま女装していて、そのまま帰宅したとか…。いずれにせよ…。
加奈子の心に沸々と炎が燃え上がる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…。
おのれ…
萌 え や が る!!
"男の娘"だと…?美少年?美少女?どっちも萌える!!
ヤバイ…これはヤバい!危険過ぎる愛よこれは!!
基本的に年下なんて却下だけど美少年なら別!!しかも男の娘ですって!?
禁断の愛よ、これは!!
クッションにあらんかぎりの力で抱き着く。
き…危険過ぎる!そして貴重過ぎる!女装出来るなんて、僅かな年齢よ?男の娘なんて絶滅危惧種じゃない!
ああ…二条さんと誠太郎君…。玉の輿か危険な恋か…。
ちくしょう…ちくしょう…萌 え や が る!!
究極の選択過ぎる!!
駄目…駄目よ…若い男の娘を大人の世界へ招くなんて…。現実を見て、二条さんと…。
『うおおおおおおお!決めらんねえええええええ!こんなのアニメでもありえねえええええ!!』
そこらじゅうのクッションをかき集め、飛びつく。
結局この日の晩は、究極過ぎる選択の結論を出せずにアイドルグループ『HARVIHIT』のコンサートDVD3本を連続ぶっ通しで見て一夜を過ごした。
一方。西川誠太郎は普段着に着替えていた。加奈子の推理通り、舞台稽古の合宿に出ていて、着替えが足りなくなって衣装のまま帰宅してしまったのだ。もちろん、薔薇を置いたのは誠太郎ではない。誠太郎はテーブルに置かれたケータイを拾い、実家に電話する。いつもの日課だ。いつもどおりの会話。
しかし、隣の部屋がドタドタとうるさい。
電話越しに母が問い掛ける。
『ねぇ誠太郎?さっきからドタドタとうるさいけど何やってるの?』
『隣の部屋からだよ。OLさんみたいだけど、彼氏と喧嘩でもしてんじゃねーの?』
次の朝。寝不足だったが仕方がない。カッタルい仕事だったが興奮覚めやらぬ加奈子にとって、そんなものは些細な障害に過ぎなかった。いつもの倍速で仕事をこなし、定時で帰宅する。
もう…どっちでもいい!
今日どっちかが置いてたら、もう話し掛けちゃえばいい!!
究極の選択を運命に委ねる。そう、それが加奈子の結論だった。いそいそと早足で帰宅する加奈子。
壁越しに部屋の扉を覗くと…あった。しかし、誰も居ない。
ちくしょう!あそこで電車が遅れなければ…!!
仕方ない。加奈子はドアの前に向かい、薔薇を拾う。
すると―。
『カナコさん!』
後ろから抱き着かれる。
男の声だ。二条ではない。聞いたこともない野太い声だった。
『ちょ、あんた誰…』
『俺と、結婚してください!』
意味がわからない。こんな奴知らない。プロポなんぞ受ける謂われはない。
まさか…ストーカー!?
狙われてたの?こいつが今まで薔薇を置いてたの?ガラガラと加奈子の幻想が崩壊していく。
二条さん…誠太郎君…。
究極の選択が壊れていく…。
…ぶちっ。
『…ぉおんどりゃぁぁああああ!!』
心の中で何かが切れた加奈子は、男の腕を引っつかみ、そのまま一本背負いの構えをとる。柔道などしたことも無かったが、男の体が地面から離れ…一回転した。
男は失神し、ピクピクと動いていた。
『け…警察警察!』
素早く加奈子は110番通報をした。
それから30分後。
『人違いぃ??』
加奈子が呆れた声を出す。どうやら薔薇を置いたのはこの男で間違いないのだが、部屋のフロアを間違えたらしい。確かに上のフロアには香奈子という同じ読みの中年女性が住んでいる。
プロポーズしようと考えあぐねた演出らしい。
…しかし人違いをしたり、後ろから抱き着いてプロポーズするなどと、実際プロポーズしたところで成功するとはとても思えないが。
それよりも加奈子は、今起こっている事態に心をギュンギュンにスロットルを回していた。
『…では、この件は被害届は出さないということでよろしいですね?』
『あ、はい。人違いだってわかったことだし…』
目の前にいるイケメン警官に心奪われている。二条さんもいいが、この警官も萌える。
『では、本官はこれで失礼します』
『あ、あの…』
加奈子がおずおずと警官に話し掛ける。
警官は加奈子のほうを見る。
『…?。何でしょうか?』
『あの、お名前を教えてくれませんか?』
〈完