足を止める。
秋の匂いがしたから。
ほんの一瞬鼻をかすめたそれが
これからいっそう香るようになってくるだろう季節を思う。
想うことは際限も無く
まごうこと無くわたしに潜む核に胸を叩かれる。
玄関でふと目にした姿見
失くなっているものを見つけて、慌てて部屋へ戻った。
靴を脱ぎ捨てて、床を這って必死で探した。
ベッドの下に落ちていたそれを見つけた瞬間、ざわざわした胸が鳴り止んだ。
澱みがすっと解けた。
こんな小さなラピスラズリに
もう何を求められもしないけれど
それでもわたしはこんなに、
これにしがみついていたんだ。
忘れられてゆくことは、
心が棄てられてゆくようでつらいね。
忘れてゆくことが
簡単には出来なければ出来ないほど、
似つかわしくない現実に肩が落ちる。
何を知らなくても
何を知らされていなくても
何が視えていなくっても、
何を視てもらえていなくても
しあわせな感情を、ひたすらに抱きしめていたんだなあ。
ずっと鍵に付けていたキーホルダーがひとつ、
知らぬ間にいなくなってしまっていた。
自分で納得して棄てたものよりずっとずっと、
かなしい気持ちになったよ。
何かに誤魔化されて有耶無耶にされるなら
ちゃんと。悲しすぎる覚悟をしたかったよ。
心がずっと、置き去りだ。
