『権勢症候群』など実はなかった! | タンタンとパパの子犬の社会化ブログ

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皆さんは『権勢症候群』(アルファ シンドローム)という言葉を耳にしたことはありますか? 

 

犬は群れの動物で常に序列をつけ、

人間の家族の中にいても自分が最上位に君臨したがる。 

 

その傾向が強い個体が『権勢症候群』という精神状態になり、

飼い主さん家族のボスになろうとし、

家族を力で支配しようとするという考え方です。

 

ですから犬が自分をボスだと思い込まないように、

仔犬の頃から厳しく叱り、体罰を使って人間が強いことを示し、

主従関係(上下関係)を叩き込まなければいけないというのが、

その理論に基づいた訓練方針になっています。

 

 これが『アルファ理論』『支配性理論』『パックリーダー論』などと言われるものです。

 

『権勢症候群』などというものがあると主張する訓練士やトレーナーの根拠は、

犬の祖先であると言われているオオカミに関する、

1947年のSchenkel(ルドルフ・シェンケル)の論文で、

動物園のオオカミの群れを観察したところ、

オオカミはアルファというボスの座を力で争って勝ち取る本能(権勢本能)があることが解ったという内容です。

 

「オオカミがそうなのだから犬もそうだろう」という昔らしい安易な考え方で、

犬の訓練士たちはこの理論に飛びつき、

「厳しく訓練しないと犬は人間の群れ(家族)の中でも同じ行動をとるはずだ」

と言い出しました。

 

 

 

 

 

ところが1999年にMech(デイビッド・ミッチ)の研究によってその説は反証されました。 

 

動物園という狭い社会で血縁関係もなく集められたオオカミの群れでは、

限られた資源(場所・食べ物・交配相手など)を巡って争いとなりますが、

実際の自然の中ではオオカミは親子同士で群れを作り、

その中で力関係の争いなど起きないと分かったのです。

 

 

さらには遺伝子の研究で、現存するオオカミと犬の祖先であるオオカミは、

種が違うことまで判明しました。 

 

つまり現代のオオカミの行動を研究したからと言って、

それが犬の行動に合致するとは限らなくなってきたわけです。

 

 

すると今度は、 「狼に『権勢症候群』がないことは分かったが、狼が犬の祖先じゃないなら

犬には『権勢症候群』があるかもしれないじゃないか!」などと言い出す始末… 

 

そもそも『権勢症候群』なんて言葉の発祥元すらなくなったのに、

どこからそんな理不尽な主張が出てくるのでしょう?

 

 

実は古いタイプの訓練士がなぜそこまで犬の『権勢症候群』(アルファシンドローム)に執着

するかと言えば、それがないと困る理由があったのです。 

 

 

彼らは『体罰』(チョークチェーンを使ったジャークや棒で叩くなど)を使った訓練で犬を

調教するのですが、それを正当化するための大義名分が必要でした。

 

「犬は隙あらば人間のボスになろうとしており、優しくしていると言うことを聞かなく

なって最終的には手のつけられない咬み犬になる。 

 

それを阻止するには犬が飼い主より下の存在であることを思い知らさなければいけない。

 

そのために人間はお前より強い!ということを力で示すのだ!」

 

というのが彼らの主張で、

「だから体罰を使って力を誇示しなければいけないのだ」という理屈に帰着するように

なっているのです。 

 

犬が権勢本能、権勢症候群などない穏やかで従順な生き物だと認めてしまうと、

彼らの得意な暴力が正当化できなくなってしまうわけです...

 

 

もちろん「学校や先輩にそう教わってきたから」「それしかトレーニング・メソッドを

知らないから」と言う理由で、教わってきた古い知識のまま犬の訓練をしているだけの

若いドッグ トレーナー(ブリーダー、ハンドラー)も少なくありません。

 

しかし、自分の生業について多少なりとも勉強する気があれば、疑問を持つと思いませんか?

 

これからドッグトレーニングの勉強をする方々には、

自分が教わってきたことが本当に正しい知識に基づいた方法なのか、

そしてそれが動物福祉にのっとった方法なのかを

よく考えて欲しいと思います。 

 

間違った知識を元に自分のやったことが、

一つの家庭を不幸にしてしまう危険性があることを

甘く考えないように…