「ロックウェル総督!本艇はまもなく位相空間に突入いたします!セイフティシステムをご利用ください!」

「うむ・・・。」

「恐れ入ります!では、失礼いたします!」


伝令が去り、総督室の扉が閉まると、ロックウェルは深くため息をつき、室内をセイフティモードに切り替えた。

ジム=ロックウェルが、この巨大飛空艇ガルーンの総責任者に着任したのは、A.D.2407.のことだった。


A.D.2377 ― その頃からちょうど30年前、コールサック中心部から巨大なエネルギー反応が確認された。

エネルギー反応はその後、0.025 lyで膨張し、その結果、計算上3年後にはロックウェルの惑星に接触、崩壊に至るという政府の判断が成された。コールサック内部のエネルギーバランス崩壊は大分前から予想されていたことだったが、この頃初めてカウントダウンの実数値が算出され、惑星の皆に公開された。


当時、ノアプロジェクトの起案者であり、リーダーであったロックウェルは20年かけて育て上げたプロジェクトの集大成 『ガルーンエスケープ計画』を実行。この計画は、巨大な飛空挺でエネルギー反応から遠ざかり、0.120 lyまで30年かけて加速、多様体空間へ転移し、他宇宙への次元ワープを実現するものだった。


今日が、その計画完了の日。


艇内アナウンスが流れる。

『 ロックウェル総督より、皆様にメッセージです。』

『皆、30年間おつかれさん。今になって、何故私がこの計画を30年前に起案したかという本当の意味がわかったよ。私はちょっとは皆に希望を与える人間になれただろうか?私は、皆とこの計画の一部始終を共にすることが出来て良かったと心からそう思う。しかしながら、どうやらこの老いぼれは故郷から足を踏み出す前にお迎えが来そうだ。後は皆に任せたよ。皆の夢、新しい故郷は自分の手でどうか掴み取って欲しい。以上だ。』


総督室のセイフティモードはその後、解除されることは無かった。


皆が新たな故郷を見つけ、飛空挺ガルーンが役割を終えるまで。