深海に適応して
生まれてきたのに
「魚として生まれたからには、日の光を浴びて育つべきだ！」
とかいう教えで
育ったら
深海魚たちは
浅い海を目指す
深い深い海の底から
頑張って頑張って泳ぐ
深海に適応した
ゼリーみたいなからだをくねらせて
がんばってがんばって泳ぐ
少し明るくなってきた
これで一人前の魚になれると
もっと頑張るんだけど
なんだかだんだん苦しくなってきた
それもそのはず
高い水圧に適応したからだは
だんだん膨張しちゃう
そこへ
浅い海に適応してる魚たちが
びゅんびゅん！
ものすごい速度で
泳ぎ回っている
こっちはやっとどうにか
からだにムチ打って泳いでいる
潮の流れが強すぎる
ああ、もう
心折れそう
ていうか
折れてる……
でも、頑張らなきゃ
みんなと同じようにしなくちゃ
そんな様子を見た
魚の先輩たちが
「お前、怠けてるなよ。もっとみんなみたいに頑張れよ！」
と声を荒げる
びゅんびゅん泳ぐ後輩たちも
クスクス笑っている
は？？
ふざけんなよ！
これでもがんばってんだよ！
いっぱいいっぱいなんだよ！
なのに
頑張ってないだって！？
これ以上頑張れだって！？
お前らが
浅い海で生きることこそ
魚として当然だ、っていうから
こんなにがんばってるのに！？
こんなに辛いのは
お前らのせいだ！！
いやいや
深海魚よ、お前が自分で
選んでいるんだよ
えっ！？そんなバカな！！
だって
浅い海へ向かって
からだを動かしているのは
お前自身じゃないかー
で、でも………
このままじゃ
からだもこころも壊すよ
とりあえず
浮き袋が膨らんで
からだパンパンになるし
目ん玉も飛び出すよ
う……、それは嫌だなぁ
ならば
今すぐ泳ぐのをやめて
深海へ戻りなさい
そしてそこで
深海魚として
暮らすのだ
まあどうするかは
お前自身が決めることだけど
深海魚は落ち着いて
周りをよくよく見回した
銀色の鱗に覆われた
流線型の魚たちが
猛スピードで泳いでいる
けれど
彼らは全然辛そうじゃない
疲れてもいない
むしろ楽しそう
自分は
もっとプルプルしていて
目がくりっと大きい（浅い海はまぶしい）
動きもスローで
ゆったりとしてる
人間には
癒し系とか
よく言われる
深海魚はもう一度
素早い魚たちを見渡した
（あんな姿がよかったな……）
そして深海魚は
からだの力をふっと抜いて
ゆっくりと
深海に降りていきました
浅い海への憧れや
自分への情けなさで
辛い気持ちも湧いてきました
涙も出ました
でも深海へ戻っていくほどに
めっちゃ楽！！！
暗い深海も
高い水圧も
冷たい海水も
自分には快適そのもの！
ああそうか
自分は深海魚だった
当たり前だ
深海はくすりと笑って
目の前にふらっとやってきた
大きな魚を
ばくっ！！と
一飲みにしました
とてもおいしかったです
おしまい
