浅草デート ~珠水サイド
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鉄板から立ち昇る、白い湯気の向こうで、篠原は嬉しそうな表情で珠水を見つめた。
さっきから珠水は、かいがいしく牡蠣バターを焼き、お好み焼きを裏返し、篠原に振舞っていた。
「なかなか、いいお店ですね。」
熱々の牡蠣を口に運びながら、篠原は、うんうんと頷いている。
「でしょ?小さい頃から通った店なの。篠原さんには、ちょっと庶民的すぎるかな?」
「そんなことないですよ。僕、こういう雰囲気、大好きです」
珠水と篠原は、地下鉄の田原町駅から程近い、お好み焼き屋で一杯飲んでいた。
戦後間もなくから続く、この店は木造の平屋建てで、まるで昔の長屋みてえな風情がある。
よしずが下がった縁側の奥の、広い座敷には、お好み焼きの鉄板テーブルがぽつぽつと並んでいて、家族連れやカップルが、もんじゃやお好み焼きを突っついてる。平日だと
いうのにもう満席だ。
「レストランもいいけど、こういう店でデートって、男にとってはなかなかいいですよ。彼女がこうやって、いろいろ焼いてくれるしね。」
そういいながら、篠原は生ビールを飲み干して、にっこり笑う。
「彼女」ってえ言葉に、珠水は敏感に反応して、頬を赤らめた。
「彼女」って、あたし?あたしって、もう、「彼女」なの?
そんな考えが珠水の脳裏をかすめたとたん、珠水はモーレツなフラッシュバックに襲われた。
そう。アレは確か、15年前のこのお店。
あっちの、窓際のあの席…。
あの日も珠水は、かいがいしくもんじゃ焼きを焼いていた。
向かい側で、生ビールを飲みながら、ガハハと笑っていたのは、幸太郎だった。
「いや~、わりいね、珠水。また、奢ってもらっちゃって。」
「えっ?!何?幸太郎、またお金持ってないわけ?先週、金が入ったって言ってたじゃん!」
「いや、そうなんだけど、さっきパチスロでスっちゃってよ。そういうわけだから、よろしくな。おばちゃん!生おかわりねー。」
珠水は幸太郎の言葉にはあ~っと溜息をついた。
幸太郎は小さい時からまるできょうだいみてえに遊んだ仲だ。
こいつのいいところも悪いところも全部知ってる。
気風がよくて優しくて、男らしいけど、だらしない。
コイツには何度も嫌な思いもさせられた。
友達付き合いも、やめようかと何度も思ったけど、どうしても放って置けない。
珠水の持ち前の姉御気質と母性本能が、幸太郎を突き放すことを許しちゃあくれなかった。
「ねえ、幸太郎。アンタもいいオトナなんだからさあ。もっと、こう、地に足つけて生活できないわけ?そんなんじゃ、お嫁さんだって貰えないよ。」
「嫁?」
「そうだよ。ちゃんとお嫁さん貰ってさ、お父さんに孫の顔、見せてやりなよ。」
「…嫁かあ。オレ、嫁さんにする女は、とっくに決めてあるんだけどなあ。」
「えっ?幸太郎、彼女、いるわけ?初耳だよ。なんで今まで黙ってたのよ。」
「まだ彼女じゃねえけどよ。」
「なんだ、アンタの片思い?いい年こいてなにやってんだか。」
バカにしたような笑みを浮かべてもんじゃを口に運ぶ珠水をじっと見つめて、幸太郎はこう言った。
「珠水、オマエ、明日誕生日だろ?」
その、意外な言葉に、珠水は目を皿みてえに丸くした。
確かに明日は珠水の誕生日だ。けど、それを幸太郎が憶えているとは。
驚く珠水を尻目に、幸太郎は、おもむろにズボンのポケットからなにやら探り出すと、珠水に差し出した。
「ほれ、プレゼント。」
大きくて分厚い幸太郎の掌に、銀色にキラキラ輝く腕時計がちょこんと乗っかってやがる。
珠水は、そいつを手に取ると、さらに目を丸くした。
「…これ、カルティエ?なに?バッタもん?」
「知らねえよ!パチスロで獲ったんだからよ。おかげで今月の給料、スっちまったけどな。」
「バカ。なに考えてんのよ。幸太郎。無理しなくっていいのに。」
そう言いながらも、珠水の頬はキラキラと輝いていた。
思えばあの日、あの時、珠水は幸太郎を、初めて男として見るようになったんだろうねえ。
…女って、単純だあな。まったく。
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