【髪結いの亭主・第19話】白昼プロポーズ
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「いいですねえ、こういう雰囲気。風情があって」
古びた商店街を歩きながら、篠原は、周りをキョロキョロと見回した。
その瞳の奥に、好奇心いっぱいの少年を見たような気がして、珠水は胸の奥がくすぐったくなった。
が、その刹那、篠原の目の前で、幸太郎にお見舞いした回し蹴りが胸に過ぎった珠水、ふいに篠原に向かって深々と頭を下げた。
「篠原さん、あの、ごめんなさい、昨夜はいろいろと失礼しました!」
「珠水さん、やめてください。僕の方こそ、失礼しました。ろくに挨拶もせずに帰ってしまって」
「いえ、昨日のことだけじゃなくって、その…」
言葉に詰まる珠水に、ジェントルマン篠原、すかさず助け舟を出した。
「大吉君のことですか?それとも昨夜の男性の…?」
珠水は、深く溜息を吐いた後、頷いた。
「両方です。私、バツイチで子持ちなんです。本当は、もっと早く言わなくちゃいけなかったのに…」
うなだれる珠水の肩に、そっと手を置いて、篠原はにっこりと笑った。
「正直、昨日はショックでした。だから、なにも言わずに帰ってしまったんです。でも、あれから一晩考えたんです。そしたら…」
「はい」
「いや、それでも、僕は珠水さんに、また逢いたい、そう思いました。だから、逢いに来たんです」
「篠原さん…」
「あなたと人生を共にしたいという気持ちに変わりはありません。これからは、大吉君のことも含めて、ゆっくりふたりで考えて行きませんか?」
浅草の薄汚い商店街のド真ん中、篠原の放ったプロポーズは、この上なく紳士的で情熱的で、優しかった。
珠水は言葉もなく、ただ、篠原の笑顔をじっと見つめるしか、手がなかった。
ピカピカの外車で颯爽と去っていく篠原を見送り、家に戻ると、店先で大吉が揚げ饅頭の袋を抱えて座り込んでいた。
「母ちゃん、お帰り。もう、帰ったのか?イロオトコ。」
そういいながら、差し出された袋に、思わず珠水は頬を緩ませた。
「おっ、揚げ饅頭じゃん。まだあったかい!頂きまーす!」
まだ、温もりのある揚げ饅頭。
口にほおりこむと、胡麻油の香ばしい香りがふんわりと鼻に抜け、餡子のやさしい甘みが口いっぱいに広がる。
「ふうん。やっぱ、うまいわ。」
珠水のこぼれるような笑顔を見つめ、大吉は得意げにこう言った。
「やっぱり、母ちゃんは、花より饅頭だよな。」
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