【髪結いの亭主・第17話】自己嫌悪
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「あ~~~~あ。」
スズモト美容室のセット椅子にどっかりと腰を下ろしながら、珠水は大きな溜息をついた。
「なんだいなんだい、聞えよがしに。溜息ついてる暇があったら、そこにあるタオルとかロットとか、洗っとくれ!」
母親のキミに叱咤された珠水は、洗面器に浸かった、細いオバちゃんパンチ用のロットを指先で摘まむと、さらに大きな溜息をついた。
昨夜のもんじゃ屋の一件から、珠水は猛烈な自己嫌悪に陥っていた。
幸太郎に回し蹴りを入れたその後、明らかに篠原の笑顔は引き攣っていた。
すみませんすみませんと、何度も頭を下げる珠水を、やんわりと制して、篠原はろくに珠水と言葉を交わさず、帰ってしまった。
そりゃー、無理もない。
突然現れた酔っ払いの男が、たった今プロポーズした女の「元亭主」で、そのふたりの痴話喧嘩を目の前で見せつけられたんだからねえ。
お陰で珠水は、バツイチだってことも、大吉っていう大切な存在のことも、篠原に伝えられずじまいになっちまった。
酔っ払って、自分の過去を篠原に暴露しちまった、幸太郎とマリエ。
けど、そのふたりに対して、怒りや恨みがあるわけじゃない。
こんな形で本人に伝わるまで、篠原に真実を伝えられなかった自分に対して、珠水は嫌気がさしていたのだ。
「ただいまーーーっ!」
大吉が、ランドセルを背負って、汗いっぱいの笑顔で店の扉を開けた。
「あー、おかえり、大吉。」
覇気のない母の声に、大吉は敏感に反応した。
「なんだ、母ちゃん、元気ねえな。今日はオレ、いいニュースがあるんだぜえ!」
得意気な笑みを浮かべると、大吉はランドセルの中から、くしゃくしゃになったプリントを取り出した。
「じゃーーーん!ほら!スゲーだろっ!」
ばん!と広げたプリントは、どうやら漢字テストらしい。
右上には赤い文字で、「55」と書かれてある。
55点…なんて中途半端な。(´д`lll)
そう思った珠水であったが、日頃から、どんな小さなことでも大吉を誉めてやろうと心がけている珠水は、大げさに喜んで見せた。
「うわーっ!スゴーイ!大吉!55点?」
「だろーっ?こういうの、『ゾロ目』っていうんだよなっ!」
ああ…orz
こいつには確実に幸太郎の血が流れてる。そう、確実に。
大吉の手からテストのプリントを取り上げ、珠水は溜息交じりの笑顔で彼の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
その時、ちりんちりんと、ベルが鳴って、店の扉が大きく開いた。
珠水が振り返ると、そこには、大きな薔薇の花束が、小さな店の入口を、すっかり塞いでしまっていた。
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