クリント・イーストウッド監督「15時17分、パリ行き』という映画があります。


イーストウッド監督の創作エネルギーが、まったく落ちる気配がありません。

本作を観る限り、年齢云々など、まったく感じさせな完成度の高さです。

 

監督の映画に関する純粋な思いが、そのまま投影されているような感覚を受け取れる作品だと思います。

 

2015年8月、高速鉄道タリス内で発生した『タリス銃乱射事件』に巻き込まれた3人のアメリカ人を主人公として描いた実話です。

 

スペンサー・ストーン

アンソニー・サドラー

アレック・スカラトス

 

この3名は、実は幼馴染。本作では、彼らの幼少期における出会いを含めたエピソードからスタートし、非常に丁寧に描かれいます。

 

そして、、、。

この作品での、驚くべき事実が一つあります。

 

なんと、この3名を演じるているのが、実際に事件に遭遇した『本人』であるということです。


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彼らを俳優が演じているのではなく、彼らを演じているのが、当事者であるということです。実は、作品を観終わってから初めて知りました。


それゆえに、鑑賞後のインパクトも増しました。

 

当初は、3人を演じる俳優の配役も決まっていたようです。ところが、イーストウッド監督の決断により、当の本人が、演じることに・・・。

もちろん俳優経験のない彼らです。

 

現地メディアでも、大きな話題になったようです。当然でしょう。

実在の人物を描いた作品において、主人公3人全てを、当の本人が演じることなど、これまでの映画史に在ったでしょうか?

おそらく無いでしょう。はじめてケースだと想定します。

 

ただ、鑑賞してみて、彼らの演技を観て、まったく違和感がありませんでした。

むしろ、「この俳優さんは、今まで観たことがないけど、誰だろう?」と思わしてくれるリアリティーがありました。

 


なぜ、イーストウッド監督は、彼らを起用する決断をしたのでしょう?

作品の出来と、その運命を左右する決断です。一般的には、このような決断を下さないでしょう。

 

しかし、鑑賞後に、あらためて振り返ると、この作品において、この決断はベストだと痛感しました。


本人が、本人を演じることで、格調の高い作品に昇華していると思われます。

この物語は、彼らの物語であり、その運命的な出来事は、彼らにしか解らない領域であるということです。

 

異国で起きた、この銃乱射事件に、アメリカ人として、どのように立ち向かったか。

いわば、『アメリカの良心』そのものが、彼らの行動そのものであるということです。

この真実を表現する最適な人物は、彼らしか居ないと、イーストウッド監督は判断したのでしょう。

つまり、この映画は、従来の映画の在り方を超えたものであると思います。

 

アメリカの良心のみらず、人間としての在り方を直接的に問う作品です。映画そのものが、人間の良心。

この映画こそ、私たちが持ちうるヒューマニズムそのものであるということ。

映画でもなく、ドキュメンタリーでもない。その両方を兼ね備えた希少価値の高い作品だと私は確信します。

 

イーストウッド監督が描く作品は、すべて私たちに人間愛を問いかける内容です。

彼らを主役に据えたことによって、映画の媒体を有効利用し、『人間愛』を伝える芸術作品になったと私は感銘を受けました。

 

クリント・イーストウッド監督の、この大きな決断は、『英断』として語り続けられる作品として残されるのではないでしょうか。


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