「痴漢注意!最近女子を狙った痴漢が出没します。
学校帰りの女子は、充分注意して下さい。」

駅を降りた所に看板が設置された。
「悔しいっ。悔しいっす…。」
元ヤンの田中ママは、涙でマスカラが取れていた。
先日田中ママの一人娘が被害にあった。
「りさちゃん、どうなの?」
「抱きつかれて、スカート破れて帰って来て、
もう学校行くのが怖いって、泣いてばかりで…
ホント、悔しくて。」
「許せないわ」
ママ友が集まって、学校に抗議した。
集団下校の話も出たが、
塾に行っている子や習い事をしている子も多く
帰りのタイミングがなかなか合わないことから
学校側が実行にうつれない。
「警察にも相談してみましょう!」
早速警察が力になり、
見回りを強化してくれた。

安心したママ達は、いつものママ会議に没頭した。
「最近パパの帰り遅くてぇ、怪しくない?」
「え、着歴チェックすか?」
「同じ番号着信あり、よ」
ファミレスに響き渡る黄色い声。
「そういえば最近うち急にパスワードロックかけだしてさぁ」
「えーっ!木村さん、ヤバくない?!」
「会社できちんとロックかけましょう、って言われたって。おかしくない?」
「パソコンじゃあるまいし、ねぇ。」
ママ友会議は続いた。

看板の前で、ママ友達はまんじりともしない空気を醸し出していた。
警察の見回り強化も虚しく
次の犠牲者が出てしまった。
小田ママは、ハンカチが手放せない状態だった。
「もう、もう大丈夫だと思ってたのに…」
「こうなったら、自分達でやるしかないわ」
子供達のために、ママ友達は立ち上がった。

まずは子供達を徹底的に鍛えぬいた。
夕方開放の体育館を借りて
もともとテコンドーの選手だった
ママ友の一人が先生になった。
別の学年のママ友仲間も参加し
剣道有段者や、CQBの訓練を受けた者も集まって来た。
「パパ達は遅いから、私達が何とかしなきゃ!」
「何で遅いか、わかったもんじゃないけどね」
フフフ…、と笑うママ友達の腹筋は割れている。
女子達はスパルタンのように
俊敏に鍛え上げられた。

「りさちゃん、行ける?」
「うん。今やらなきゃ一生後悔するってママに言われた。りさ、やる。」
りさとまりが襲われたのは同じ場所。
同一犯である事は間違いない。
「大丈夫。ママ達が後についてる。」
各々スタンガンやナックルカイザーで武装している。
「あなた達がいればかならず犯人はやってくるわ。できる?」
りさとまりは大きくうなづいた。
暗くなった頃、現場に向かう。
決意に満ちたママ友にも緊迫感がみなぎる。
「昨日」
「昨日?」
「パパのパスワードロック、解除成功した」
「どうだった?!」
「最悪。こないだの出張のお土産の白い恋人、
あれクロよ」
「マジっすか…」
話した内容の割りに表情がなく、むしろ恐い。
「木村さん…クールね」

現場近くの茂みに各々散った。
携帯で連絡を取りながら、娘に合図を出す。
口を真一文字に結んだりさとまりは、
少々不自然に手をつなぎながらやって来た。
とうとう現場に差しかかる。
怪しい男の人影が、車からぬっと現れた。
ママ友に緊張が走る。
間違いない。コートの下は全裸に革靴の変態野郎だ。
子供達は一瞬戸惑ったものの、つないだ手を振りほどいて
りさの痛恨の跳び後ろ回し蹴りが決まった!
小柄とはいえ充分に体重が乗り
19センチの靴の裏には、
圧力が集中し、犯人は吹っ飛んだ。
すかさずママ友達が一斉に飛びかかった。
もともと肉弾戦のケンカには及ばない女性らしく
やる時には手加減がない。
「き、木村さん?!」
竹やりを持った木村ママが犯人を滅多打ちにする。
地べたに情けなくうずくまる犯人。
「きえええええええっっっ」
木村ママが奇声を上げながら
犯人の局所を目がけて竹やりで刺そうとした!
「ひいいいいっ!」
寸でのところで剣道有段者速水ママが止めた。
「次にやったら、ここ、ないよ」
「すいません、すいませんでしたああああ」
失禁した犯人は、コートを剥がれて
車のキーもどこかに投げられ、
裸に革靴で走って逃げて行った。
「ごめんなさい、私ちょっと取り乱して…」
「わかる。わかるわ…」
隣に居た小田ママが木村ママを抱きしめた。
その夜、ママ友達はファミレスで勝利の美酒に酔いしれた。

駅にもう一つ看板が設置された。
ひとつは
「痴漢注意!最近女子を狙った痴漢が出没します。
学校帰りの女子は、充分注意して下さい。」
もうひとつは
「痴漢注意!最近女子を狙った痴漢を狙った集団が出没します。
痴漢行為をしないのが身のためです。」
その看板に
- 痴漢上等 辻斬り参上 -
と赤いスプレーで上書きしてあった。