天宝 | 京都1975

天宝

一乗寺のメインストリート・東大路通りにて、飲食店の並びのまさに「狭間」に存在する異形のラーメン屋・「天宝」。発狂したようなパンキッシュな看板に、ルンペンの住処かと見間違うような狭く、ボロい佇まい。「天天有」、「高安」のような正統派人気ラーメン店に比べると明らかに異端児であり、ファーストインプレッションの時点で正常な思考回路の客は、ほぼフィルタリングの対象に。いざ店内に足を踏み入れると、レゲエをBGMに、チェケラッチョ(死語)なBAD-BOYS店員のお出迎え。結果は言わずもがな、若者限定の客層であり、飲酒後のオヤジ階層や家族客など皆無である。意図的にアンティークさを装うラーメン屋が横行する中、この店は本格的にボロく、薄汚い。油でギトギトの壁、裸電球、黄ばんだMacintoshに、無口な店長。この雰囲気を逆に楽しめる気概がないと、この店のラーメンは楽しめない。目玉は「角煮ラーメン」。豚骨ベースに豆板醤等を加味したアジア風スープ。このスープ単体では比較的あっさりとした風味で物足りなさを感じるが、その上にとろけそうな程に煮込まれた豚の角煮と煮汁が加わることで、ある意味ラーメンを超えた「おかず」的な風味を持つ「食べ物」へと変貌を遂げる。底が浅く、径が広いラーメン鉢に、スープは少なめ。これはもはやラーメンというより、中華料理と定義してもおかしくないようなオリジナルティである。お勧めは「角煮切れ端ラーメン」。麺と角煮がセパレートされた「角煮ラーメン」とは異なり、細切れの角煮がラーメン鉢の中に縦横無尽に散らばり、すくい上げる麺にことごとく肉片が絡みつく。至高のごはん喰い系ラーメンとして、その存在は揺るぎない。現代的ガンコ親父とも言える無愛想な「天宝」の若店長であるが、「天天有」、「珍遊」など、続々とチェーン店化してゆく近隣のラーメン屋など眼中にない、というか、そんな商魂など微塵も感じさせないほどの偏屈さを醸し出している。しかし、そんな「天宝」もつい最近、これまで外に丸出しだった店内を遮るよう、入口に扉を増設してくれたりと、芋虫のような遅い速度で成長しているのはなんとも微笑ましい。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」ではないが、その見かけに辟易せず、ラーメン好きの方なら一度は訪れてほしい、アクの強いラーメン屋・「天宝」。ほとんどはアルバイト店員が切り盛りしている模様で、もし店長が店番をしている機会に出くわしたならば、「アタリ」と言えるかもしれない。

天宝 (てんほう)
★★★★ 4.0