就職4(東京都北区志茂町)
昭和25年
この頃は就職難で新聞に求人広告が出ると
求職者が殺到していました。
父が新聞で見つけた「日本ゴム布工業」の事務職の求人は2名だったので
きっと無理だろうなぁ、と思いながらもダメもとで面接を受けてみることにしました。
その会社は「巣鴨」にありました。
私は「巣鴨」の場所がわからず、探し探し行きました。
赤羽から京浜東北線に乗り田端で乗り換え山手線で巣鴨に着くはずでしたが
なんと私は山手線を反対方向に乗ってしまったのです。
気づいて慌てて乗り換え
急いで向かいましたがもう大幅に遅刻です。
やっとの思いで書いてあった会社の住所の前に着きましたが
「ほんとに、ここかしら?」という印象の古くて小さな建物でした。
もっと大きな会社を想像していましたのでちょっとがっかりしました。
でも、せっかくここまで来たのだからこのまま帰るものもったいない、と思い
会社の方に遅刻を詫び面接を受けさせてもらいました。
二階に通され、お部屋に入ると、たくさんの人がそろばんの試験を受けていました。
私はそろばんは得意です。
後から試験を始めましたが一番に終わり
結果合格し、難なくお仕事に就くことができました。
昭和26年4月には箱根・熱海へ慰安旅行に行きました。
とっても美人の方がいました。
富塚みちこさんです。
みちこさんは年下でしたが、会社には私よりも先に入っていたので先輩です。
とても気が合いすぐに仲良くなり、
ある日映画に行くことになりました。
会社の前で待ち合わせ、みちこさんが来たのですが、
「ちょっと待ってて」と言われ
「どうしたのかしら」と思っていたら
会社の裏から男性が出てきました。
詰襟の学生服に下駄ばき、むさくるしいもっさい風貌の大学生です。
みちこさんに「あの人だれ?」と聞いたら
「社長の息子の善ちゃん」と言っていました。
そして3人で映画に行きました。
私は別れ際に「さよなら」と言っただけでその人と一言もしゃべりませんでした。
その後、会社の女子更衣室に
その大学生が時々遊びに来るようになりました。
みんなよく知っているようで仲良くしゃべっています。
社長の息子だからお金持ちで仕事もせず
大学生だから時間があってブラブラしているんだろうなぁ、と思い見ていました。
しばらくしてその大学生からメモを手渡されました。